BRIEFING.431(2017.05.18)

フリーレントの「食い逃げ効果」

都心の賃貸オフィス市場は逼迫し、ビルオーナーは強気の賃料を提示することも可能な状況である。しかしビルの大量供給を控えていることから、まずは長期安定的なテナントの確保に努めているというのが今のオフィスビル市況であろう。

テナント確保に効果的な手段の一つとしては、フリーレントがある。いわば「逆権利金」のようなもので、詳しい説明は省くがメリットとして次の様なことが揚げられる。

ビルオーナーとしては、テナント誘致に有効である他、賃料減額が既存テナントに波及するのを防げ、また(詐欺に近いが)ビルを売却する際の利回りを高く言うこともできる。

テナントにとっては、家賃の二重負担を回避し、引っ越し代や旧・事務所の原状回復費、新・事務所の内装工事費等を吸収できる可能性がある。

ここではフリーレントによる長期的な平均賃料割合について見てみる。フリーレントの期間は6ヶ月間とし、24ヶ月未満の解約はフリーレント期間中の賃料一括払いのペナルティーがあるものとする。それによると入居期間(フリーレント期間を含む)中の平均賃料割合は次の様に計算される。但し発生時期による割引(金利)は考慮しない。

入居期間 平均賃料割合 ペナルティー
12ヶ月 6/12=50.0% 100%となる
24ヶ月 18/24=75.0% なし
36ケ月 30/36≒83.3% なし
48ヶ月 42/48=87.5% なし
60ヶ月 54/60=90.0% なし

24ヶ月以上の入居ならテナントにとって得なように見える。しかし、そもそもの賃料が適正水準か否かもチェックしておく必要がある。たとえば、その賃料(上表では100%)が割高で、もしその90%が適正水準だったならどうだろう。テナントにとっては60ヶ月未満までなら安く借りられたことになるが、それより長期になると割高になってしまう。24ヶ月以上60ヶ月未満で解約しなければ損だ。

仮にペナルティーが「60ヶ月未満」ならテナントには全く得がないばかりか、それ以降も入居を継続すれば割高の賃料を負担させられることになる。定期建物賃貸借契約なら、特約で賃料の増減額請求権を相互に放棄している場合が多く、そうならば賃料の減額改定を申し入れることもできない。

その結果、得をするのはペナルティー期間経過後早々に解約するテナント、いわば「食い逃げテナント」ということになる。

フリーレントは、賃料が適正な水準であったとしても(ペナルティー期間経過後)、平均賃料割合を逓増させるため、早期解約のインセンティブとなる。「食い逃げ効果」がある。それは長期安定的なテナント確保を目論むビルオーナーの望むところではない。むしろフリ−レントは長期入居者にこそ与えられるべきで、たとえば契約更新の都度、2ヶ月間付与(いわば「逆更新料」)する等、検討の余地があるのではないか。


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