BRIEFING.432(2017.05.25)

同一不動産の定期評価と時代の空気の織込み方

同一の不動産を、不動産鑑定評価の手法によって毎年あるいは2〜3年毎に評価することは珍しくない。このような評価を定期評価と呼ぶこととする(このうち同一不動産鑑定士が行う不動産鑑定評価は継続評価と言われる)。

その代表的なものとしては、国土交通省による標準地の評価(地価公示)、都道府県による基準地の評価(地価調査)、市町村による標準宅地の評価(固定資産評価)等である。また民間でも、不動産投資法人による証券化対象不動産の評価、固定資産の減損に関する評価、賃貸等不動産に関する評価等がある。

このような評価においては、前回からの推移に配慮し、前回評価を重要な参考とする傾向がある。しかし定期評価には、前回からの推移を知るために行われる面があるから、新たに求めようとする価格に前回からの推移を斟酌・忖度して織り込むようなことがあっては本末転倒である。

だが一方で、不動産鑑定評価においては、事例資料の乏しさ、その収集の困難さ、さらには取引価格形成過程に当事者の事情が介在することから、定期評価に斟酌・忖度は必要悪と考えられている節がある。

たとえば不動産鑑定評価基準第8章第4節には「鑑定評価先例価格は鑑定評価に当たって参考資料とし得る場合があり」とある。また「一般的要因の分析」が義務付けられていること、「試算価格の調整」に相当の裁量が介在し得ること、「事情補正」が許されていることからも、過去からの推移を斟酌・忖度すること、言い換えれば「時代の空気を織込むこと」が許されていると考えられる。いや、そうすべき、そうしなければならない、そうでなくては社会の期待に応えられないと言うべきだろう。

不動産鑑定業界においては「時代の空気説」はすでに当たり前のこと、何を今更、と言われ兼ねない。すでに論点は、このことを公に認めるべきか、如何に説明・記載すべきか、という点に移っていると言うべきだ。

たとえば、時代の空気を織込まずに地価公示標準地の鑑定評価(毎年1月1日時点)を行ったとしたらどうだろう。価格は毎年、ガタガタと上下に変動してしまうかも知れない。特に、地価に大きな変動がない時期・地域においてはそうなる可能性が高い。

今後のあり方として次の3つの方向を指摘しておく。

@空気を織込まない主義
 前回評価額を「参照」はしても今回は今回という態度。ガタガタを容認。
A空気を織込まないふり主義
 前回評価額を「重視」。でもしていないふり。ガタガタは避ける。
B空気の織込み説明主義
 前回評価額を「重視」しその織込み方を説明。ガタガタを避ける。

@を貫くのは立派なことだが、落としどころはBだろう。今までは「皆分かってんだからAでいいじゃん」といったところか。「@だけど結果的にうまくガタガタもないんだ」では業界内でも世間でも冷笑の対象となるだろう。


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