BRIEFING.437(2017.07.13)

短期の賃貸市場と賃料相場の形成

平成12年に定期借家制度(借地借家法第38条第1項の定期建物賃貸借)が施行されて17年が経過したところである。事務所ビルではかなり普及したものの住宅においてはまだあまり利用されていないのが実態である。平成28年度住宅市場動向調査報告(国交省住宅局)によると「民間賃貸住宅に住み替えた世帯」の定期借家制度利用率は、平成24〜28年の各年で3.0%、4.1%、3.2%、1.5%、2.2%で、平均わずか2.8%に留まっている。

その賃料水準について言及はないが、2年や3年で(再契約の場合を除き)出て行かなければならない借家では、需要は限られ、そうではない普通借家との競争上、若干賃料水準は低いと考えられる。単身者用で概ね1割安というのが大方の見方であろう。再契約の見込みがないなら2割安といったところか。

では、自宅の建替え期間(たとえば4ヶ月間)、あるいは会社の立ち上げまでの期間(たとえば6ヶ月間)だけ定期借家でいいから借りたい、という需要に対して供給側はどういう賃料を提示するだろうか。おそらく、逆に割高の賃料を提示(または拒絶)するであろう。なぜなら、短期間といえどもクロスが手垢で汚れ、クッションフロアに家具の足跡が付く可能性があるところ、これらの原状回復費を賃借人に請求することは、原則としてできないからである。3年間以上入居してなら仕方ない(元が取れる)が、数ヶ月では・・・。加えて仲介手数料や広告料も支出していたらひどい損害である。

では、供給側が6ヶ月間だけ(しかも再契約の可能性なし)という条件で募集をかけた場合はどうか。おそらく需要はなく、たたかれて格安賃料で借りてもらう他ない。

一時使用目的の建物の賃貸借(借地借家法第40条)の場合も同様だ。客観的に一時使用目的であることが明確なら期間は1ヶ月間でも3年間でもよい。借地借家法の規定が適用されず、一般法である民法の規定に従うものである。その賃料は安かったり高かったりだろう。

このような短期間の賃貸借における賃料相場があるとすれば、従前入居者が汚した後をそのまま使ってもらうということで普通借家の2割安といった程度だろうか。

しかし、今週中にこの近辺で現場事務所が必要、という需要者は、割高でも飛びつく。逆に少しでも収益が欲しい供給者は、消極的な需要を低廉な賃料で掘り起こさねばならない。需給の乏しい市場では偶発的に取引が成立するにすぎず、賃料相場は形成されないのである。

絶対借りたい 借りてもよい
絶対貸したい   成立  安く成立
貸してもよい  高く成立   不成立

たまたま出会った需要者と供給者の積極性の程度の組み合わせにより、成立する契約の賃料水準は上表のようになる。もちろんこれは極端な例であるが、一般の不動産の賃貸借・売買市場においても、不動産の個別性の高さ故、上表のような傾向があると考えられる。


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