BRIEFING.441(2017.08.31)

過疎地域への買換えとコンパクト・シティ化

いわゆる事業用資産の買換特例は、租税特別措置法第65条の7(法人)及び同法第37条(個人)に定められた特例で、特定資産の譲渡益の80%につき圧縮記帳又は取得価額の引継ぎができるしくみである。

その対象となる買換えは、@所有期間10年超の土地等、建物の既成市街地等の内から外への買換え、A市街化区域又は既成市街地等の内から外への農業用資産の買換え、B航空機騒音障害区域の内から外への買換え、C過疎地域の外から内への買換え、D都市機能誘導区域の外から内への買換え等である。

それぞれに意義のある制約である。

しかし、都市再生特別措置法により、コンパクト・シティ化への流れが明確化された今日、@やCはどうなのだろうか。確かにかつては都市への過度の集中を防止し、過疎地域に産業が生まれることは、歓迎すべきことであったが・・・。

この点、@は今年度税制改正により「都市機能誘導区域」以外への買換えはダメとされたところである。「既成市街地等」以外の「都市機能誘導区域」に買換えなさいということで、コンパクト・シティ化の色合いを鮮明にしている。しかしCについては相変わらずで、今更過疎地域への買換えを推奨しても・・・という気もするが悩ましいところである。

国交省地方振興課は、平成29年度税制改正要望事項(延長)において「過疎地域は(中略)国民全体の安全・安心な生活を支える極めて重要な公益的機能を有している」と、この特例の延長を必要とする理由を述べているが、にわかには首肯し難い。

過疎とは、地域の人口が減ってしまうことで、その地域で暮らす人の生活水準や生産機能の維持が困難になってしまう状態を言い、そのようになった地域が「過疎地域」である。

過疎地域自立促進特別措置法では、第2条第1項及び第32条に定める要件に該当する市町村を「過疎地域市町村」とし、同法33条1項で「過疎地域とみなされる市町村」、同法33条2項で「過疎地域とみなされる区域のある市町村」を定めている。

これらの市町村は公示されており、全国に797市町村、その内東京都にも6町村(奥多摩町、檜原村、大島町、新島村、三宅村、青ヶ島村)、大阪府にも1村(千早赤阪村)がある(いずれも平成28年4月)。

一方、Dはコンパクト・シティ化の流れに沿った買換えであり、Cとは方向性を異にするものである。その併存はアクセルとブレーキを同時に踏むことにはならないだろうか。

また、マイホーム(居住用資産)の買換特例には地域の限定はなく「日本国内」であればOKだ。しかしどうせなら、買換先を「居住誘導区域」(市街化調整区域や土砂災害警戒区域を避けて指定されている)に限定すべきだろう。

持続可能な都市・社会の実現のために残された選択肢は少ない。


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