BRIEFING.442(2017.09.07)

建物の残存価値と賃料の関連

価格1,000円で長さ20cmの羊羹があったとする。それを端から1cm切ると、切った部分の価値は50円、残りは950円と考えることができる。

次に950円になった羊羹の端をさらに1cm切ると、切った部分の価値はやはり50円である。さらに1cm切ってもやはりそれは50円、次の1cmもやはり50円と考えることができる。

品質の劣化を考えなければ、毎日1cm、20日間、毎日50円相当の羊羹を楽しむ(効用を享受する)ことができる。そして、今日の1cmと明日の1cmの価値の差(割引率)を無視すれば、50円/日×20日=1,000円という計算が成り立つのである。

ところで、残りの羊羹の価値に対する、毎日切る羊羹の価値の割合は、下表の通り変化してゆく。すなわち新品の時は小さく、食べ進むと増加してゆくのである。

1日 2日 3日 4日 5日 6日 7日 8日
切る前の価値 1,000 950 900 850 800 750 700 650
1cmの価値 50 50 50 50 50 50 50 50
割合 5.0% 5.3% 5.6% 5.9% 6.3% 6.7% 7.1% 7.7%

この関係は、建物の賃料と価格の関係に似ている。

建物も有限であるから、年々身を削ってその効用を発揮し、その価値は年々下落していると考えられる。羊羹が小さくなって行くのと同じである。しかし、残存価値の低下そのものが賃料の下落に直結する訳ではない。羊羹全体の長さと羊羹1cmの価値(味)との間に何の関連もないのと同様だ。

但し現実には時間の経過とともに建物が劣化して賃料は下落するし、日が経てば羊羹の味も落ちるであろうことは言うまでもない(経済情勢によっても変動する)。

また土地建物の場合、建物の価値は0になっても土地の価値は永久と考えられるから、最後には0となってしまう羊羹の例は適切ではないかも知れない。しかし、建物取壊し費用と土地の価格が同じくらいだとすれば、土地建物の価値も最後には0となる。羊羹と同じである。

いずれにせよ、羊羹1cmの価値の、羊羹全体の価値に対する割合は、食べ進む毎に逓増する。上表最下段の通りである。それは、建物の使用が進むに連れ、還元利回り、期待利回りが逓増することと関連していると考えられる。実際、新築の建物の利回りは低く、老朽化した建物の利回りは高い。

したがって、高額で取得した新築ビルに高い利回りの賃料を期待してはならない。逆に、安く買った古い空きビルに、案外高い利回りの賃料でテナントが決まることもある。

また、稼働中の収益物件への投資に際し、高利回りにばかり目を奪われてはならない。低利回りでも新品の羊羹ならよし、高利回りなら食べかけの羊羹と心得なければならない。


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