BRIEFING.447(2017.10.12)

分割併合で見えてくる限定価格の本質(3)

分割併合による増分価値は(a’−a)−(b−b’)で求められる。しかし、それがマイナスになる場合もある。

前回の例は、併合する側の土地(A地)の単価が分割する側の土地(B地)の単価より高い場合であったため、分割併合される10uの単価が上昇し、増分価値が生ずるというケースであった。

これが逆であったなら、マイナスの増分価値、すなわち減分価値が生ずることとなる。

A地所有者が、自分の土地より単価の高い隣地を取得し、自分の土地と同単価に下げてしてしまうというのは、合理的ではないが、何らかの事情で面積を広げたい場合にはあり得る話である。

この場合、生ずる減分価値を、B地所有者にも一定比率で負担させるというのは現実的でない。B地所有者にとっての売却限度額を下回る価格になってしまい、B地所有者は売却を拒むだろう。A地所有者は、少なくともB地と同単価(すなわち売却限度額)を提示せねばなるまい。買主が減分を全てかぶる、補償という意味合いの価格と言える。

しかし、B地所有者が土地をもてあましており、奥の方を分割譲渡したいという意向を持っていたらどうだろう。そしてA地所有者が今以上の面積を望んでいないとしたら・・・。

このように売主が積極的、買主が消極的なら、減分価値を両者で分け合っておかしくないし、売主が全部かぶってもおかしくない。ならば、増分価値が生ずる場合でも、売主が積極的で買主が消極的なら、売主は増分価値を全て買主に与えてでも購入するだろう。これらの組み合わせと配分の方法は下表の通りで、消極的な(またはそう見せる)方が有利となる。

●増分価値が生ずる場合
買主積極的 買主消極的
売主積極的 適切に配分 買主に100%
売主消極的 売主に100% 取引されない
 
●減分価値が生ずる場合
買主積極的 買主消極的  
売主積極的 適切に配分 売主に100%
売主消極的 買主に100% 取引されない

不動産鑑定評価でいう限定価格は、両者同じくらい積極的に売りたい・買いたいという場合を想定していると考えられる。しかしその度合いはモノサシで測れるものではないし、外観からは読み取りにくい(あえて隠す)。複数の人が参加する市場があれば本音を出さざるを得ないのだが。

両当事者は、自分の積極性を秘匿し、相手の真意を探り、折半だ、総額比だ、と解決方法を模索する。決裂すれば両者とも損だが、先に折れても損だ。できれば相手に折れさせたい。限定価格の決定過程は一種のチキンゲームなのである。


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