BRIEFING.448(2017.10.30)

利益相反は方針や立場の相違で説明を

ある大手百貨店は、賃借している店舗の所有権取得を進めていたが、最近、残りの持分を買い取り、土地建物を100%所有することになったという。

新聞報道によると「年間10億円強と推定される」同店の賃料負担がなくなり「賃料削減や機動的な店舗運営による収益改善を狙う」とのこと。買取資金は、現預金や銀行借り入れなどで充当され、業績予想は上方修正される見込みである。

一方、その翌日の新聞には、某メーカーが不動産売却を加速し、総資産を圧縮して資産効率の改善を目指しているとの報道が見られた。売却する不動産の一部はリースバックにより、使用を継続するという。

前者はROA(総資産利益率)の分子も分母も引き上げ、後者はその両方を引き下げることになる。ともに収益改善を目指す両社が同時期に相反する方向を選んだことは興味深い。

不動産を所有せず賃料を負担していくか、不動産を所有して借入金利息を負担してゆくか、どちらがよいのかという判断はいつの時代も難しい。それは、企業のみならず、賃貸住宅に住むか、(住宅ローンを背負って)持ち家に住むか、という選択に似る。

諸々の事情を排し、その選択の方向性を指摘すれば次の通りだろう。

@インフレ(価格・賃料の上昇)が見込まれる場合
 今のうちに不動産を取得し所有しておくべき。
Aデフレ(価格・賃料の下落)が見込まれる場合
 今のうちに不動産を売却し賃借しておくべき。

@と読むか、Aと読むかは、判断の分かれるところであり、だからこそ、不動産を売る人がおり、同時に同額でその不動産を買う人がいるのである。どちらが誤った判断という訳ではない。

ところが、売主・買主の意思決定者が同一だと矛盾が生ずる。でなければ意思決定者がどちらかの利益を優先していることになる(あるいは租税回避が目的か)。

不動産投資法人と、そのスポンサー企業との間の不動産(またはその信託受益権)取引は、そのような疑いを持たれやすい。かねてから懸念されている利益相反である。そこで不動産投資法人が不動産等を取得する際には、不動産鑑定評価が実施されることとなっている。

だが、不動産鑑定評価額が両者にとって公平妥当な価格であり、どちらにも損得ない額というなら、そもそも売買する必要性はない。そこで両者は、事情や方針、立場が異なるために価値判断が相違し、その取引が両者にとって得になるということを説明せねばならない。利益相反取引には十分に配慮し・・・というだけでは納得できない。

右を向いて「こんなにいい不動産を安く買いましたよ」と説明し、左をむいて「あの不動産は高く売り抜けました」であってはならない。


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