BRIEFING.450(2017.11.30)

極端に安い賃料と継続賃料の鑑定評価

不動産の賃料は、賃貸借の両当事者の協議の上、改定され得るのが原則である。この点で、後から変更できない売買価格とは大きく異なる。当たり前のようであるが、これは賃貸借と売買の本質的差異である。

売買の場合「売ったけど安すぎたからもう少し払ってよ」とか「急いでいて高く買ってしまったけど今から値引きしてよ」と後から価格の「改定」はできない。

では、賃貸借の場合、どのようなときに賃料の「改定」ができるのであろうか。

借地借家法では、地代については第11条、家賃については第32条で定めている。しかしどちらも「・・・となったときは・・・の額の増減を請求することができる」と定めているのみで、どの程度増減請求できるのかは不明である。協議が調えばよいのだが・・・。

不動産鑑定評価基準では「不動産の賃貸借等の継続に係る当事者間において成立するであろう経済価値を適正に表示する賃料」すなわち「継続賃料」を求める手法として、次の4つを示している。

@差額配分法
A利回り法
Bスライド法
C賃貸事例比較法

それぞれの説明は省くが、これらから導かれる賃料がその答えとなろう。

しかし、実はこの中で「経済価値に即応した適正な」賃料、すなわち「正常賃料」と関わりがあるのは@だけである。ABは従前賃料を重視し、その中に潜んでいるかも知れぬ不合理、不公平、理不尽といったものを捨象し、従前賃料を出発点とする。正常賃料に出る幕はない。Cは「継続賃料固有の価格形成要因の比較を適切に行う」ことが難しく、なかなか説得力ある結論を導きにくいものである。

さて、当コラム読者諸氏なら、浅草の「仲見世商店街」の家賃値上げ問題について大いにご関心をお持ちであろう。昔の話はさておくとして、この7月まで敷地は浅草寺所有、建物は東京都所有(地代はただ)であったところ、都が寺に建物を売却。建物所有者となった寺は1,500円/月uであった家賃を25,000円/月u(16.6倍)に改定する旨、建物賃借人(店舗経営者)に提案した、という一件である。

周辺相場を重視すれば寺に理があるものの、極端に安い今の賃料、過去の経緯、街並み保全のための制限等を考慮すればそうとも言えない。元禄か享保かといわれる商店街誕生からの歴史をも踏まえる必要があろう。

「継続賃料」を求める鑑定評価の手法は、これに対応し得るであろうか。


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