BRIEFING.451(2017.12.07)

「地面師」活発化の背景に用地争奪戦

他人の土地の所有者になりすまし、書類を偽造し、売主として取引して売買代金を搾取する。法務局が書類の偽造に気付いた時、買主はすでに売主と連絡が取れない。いわゆる「地面師」の手口である。

懐かしい感じもする犯罪ではあるが、近年、活発化している。しかも欺し取られる金額が大きく、さらに注目すべきは欺される側が用地取得に長けたプロである点だ。

今年に入って明るみに出た大型事件は次の2つだ。対象となった土地の所在街区と地積、売買代金と被害額は次の通りである。

●品川区西五反田2丁目22番 約2,000u 70億円の内63億円
●港区赤坂2丁目11番 約380u 12.6億円の全額

前者の土地は廃業した旅館の敷地で、被害者は大手住宅メーカー。分譲マンション用地として取得を図ったものである。後者の土地は駐車場で、被害者は全国展開するホテル事業者。もちろんホテル用地として取得を図ったものである。

新聞等の報道によると、手口のあらましは冒頭で述べた通りで、典型的「地面師」によるものである。そのポイントは、所有者になりすます人物の演技力と、書類を巧妙に偽造する技術力である。買主はそれを見抜けず、結果的に確認が不足していたということになる。

通常の不動産取引においては、不動産の引渡し・代金決済・登記の移転の3つが同時に行われる。しかし「同時」とは言っても、本当に同時という訳にはいかず実際には「同日」という程度であろう。具体的には、銀行の会議室等で、残代金の支払いと、登記に必要な書類の引渡しと、(建物があるなら)鍵等の引渡しが行われ、買主の依頼を受けた司法書士が必要書類を確認の上、すぐに法務局へ走って登記を申請する、という流れになる。

そうすると、登記に必要な書類の偽造を、その場で見抜けなければ、法務局に持ち込んで初めて偽造が発覚することになる。しかも登記官が気付くのはすぐではない(実際、上記の前者では8日後、後者では6日後であったという)から、その間に「地面師」らは悠々と行方をくらますことになる。

買ったつもりの買主らは、開発コンセプトを決め、設計図を引き、地盤の調査を手配し、役所との協議を・・・と動き始めていたことであろう。

近年、都心の地価上昇の原動力となっているのは、低金利とインバウンド需要を背景とした、マンション業者とホテル業者の用地争奪戦である。その結果、買主側に「ライバルが現れぬ内に、売主の気が変わらぬ内に・・・」と取引を急ぐ状況が生じ、「地面師」らはそれに付け込んで活動を活発化させていると考えられる。

ところで「地面師」は代金を現金で受け取るのが古典的手口。今回は一部現金でとの報道があったが詳細は明らかでないが、現金ならそれだけで不自然なのでは・・・。


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