BRIEFING.452(2017.12.15)

端数処理のジレンマ

不動産鑑定評価の過程において求められる数値は、いくつかの段階で、四捨五入によって端数処理が行われてゆくのが通常である。その際は、上3桁程度にまるめるのが一般的だろう。それより細かい数字を並べたところで、鑑定評価の精度から考えて無意味だからである。

しかし、各段階でまるめてゆくと、四捨五入の結果としてたまたま切り上げが続いたり、切り捨てが続いたりした場合、誤差が大きくなる場合がある。そこで、各段階で四捨五入を挟まず、最後に四捨五入するという方法も考えられる。パソコンを使えば容易である。

前者は「段階毎四捨五入主義」、後者は「誤差の累積排除主義」であり、一般的には前者が採用されているところであるが、分かり易いが誤差が累積するというジレンマがある。

また、不動産鑑定評価の計算過程にかけ算・割り算ばかりではなく、足し算・引き算も混在することから、次の様な不都合が生ずる。

比準価格1億2,300万円の土地(123万円/u×100u)の上に、積算価格49万2,000円の古い建物(8,200円/u×60u)が乗っている。この不動産の積算価格は・・・?

123,000,000円+492,000円≒123,000,000円

上3桁を有効とした結果、土地建物の積算価格は、土地の比準価格と等しくなってしまった。この土地建物の積算価格の土地建物内訳は?

また、更地としての鑑定評価額1億2,300万円の土地に残置物(不要なフェンス等)があり、その撤去費用が45万6,000円だとする。この土地の鑑定評価額は・・・?

123,000,000円−492,000円≒123,000,000円

この場合も上3桁を有効とすると、残置物はあってもなくても同じということになる。

また、不動産鑑定評価額の決定に際し、次の様なジレンマもある。

(単価)902,000円/u ×(地積)199u ≒ (総額)179,000,000円

(総額)179,000,000   ÷(地積)199u ≒ (単価)899,000円/u

単価を求めて総額を算出、その総額の単価を再計算すると最初の単価と異なってしまうのである。この例の場合、上から3桁目が3も違う。3も相違するのはレアケースであるが、1や2の相違は珍しくない。

不動産鑑定評価の過程における端数処理に関しては「誤差累積のジレンマ」「四則混在のジレンマ」「単価総額のジレンマ」がある。鑑定評価の本質に関わることではないとは言え悩ましい問題である。


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