BRIEFING.455(2018.01.11)

緊急離着陸場と緊急救助用スペース

いわゆるヘリポートには、国交省航空局が所管する狭義のヘリポート(空港等)と同局所管の「場外離着陸場」以外に、消防庁が所管する「緊急離着陸場」「緊急救助用スペース」がある。

高層ビルの屋上によく見られるヘリポートは「緊急離着陸場」または「緊急救助用スペース」である。前者には「H」、後者には「R」と大きく記されており、上空から見て容易に認識することができる。なお「R」はホバリングのみのためのスペースで、離着陸はできない。これらの設置は強制ではないものの、消防庁消防課長らから各都道府県消防主管部長宛の通達及び、建設省(現国交省)住宅局建築指導課長から特定行政庁建築主務部長宛の通知により、一定の建物について「設置の推進」が図られている。

これを受け、東京消防庁、大阪市消防局等は、設置指導基準等を作成し、設置の推進に当たっている。その設置指導対象は、各消防局とも概ね同じで、高さ45m超〜100m以内なら「H」か「R」を、100m以上なら「H」を、高度医療・防災関係公共施設には高さに拘わらず「H」を、といったところだ。なお、「H」はヘリコプターのH、「R」はレスキューRである。

しかし、ビル等の新築時にこれら(特に「H」)を設置する場合、相当の重量・強度を見込んでおかねばならず、建築費も嵩む。なのにそれが実際に役立つことは少ない(もちろんそうでなければいけないが)上に、下から見上げても見えない。

では、不動産鑑定評価に、これらの有無はどう影響するだろうか。一般的な設置基準である45mを切る44mの高さのビル(なくても基準に反しない)を想定し、その屋上に「R」がある場合とない場合とで比較検討してみる。

まず、積算価格であるが、再調達原価が上がるため、上昇すると考えられる。置換原価を採用し「同等の効用を持つ」と考えて「R」がない場合と同じとする、というのは乱暴に過ぎる。やはりここはその分のコスト差を考え上昇と考えるべきだ。

収益価格は、維持管理費、修繕費が嵩んで純収益が低下し、下落と見るべきだろう。但し、「R」があることで賃料の上昇が見込めるならそれを補うことができるかも知れないが、賃貸事例でそれを確認することは難しく、悩ましい。

比準価格は、事務所ビルの場合、床面積当たりの相場といったものがなく、適用が難しい。区分所有マンションなら、専有床面積当たりの相場が形成されており適用可能であるが、屋上の「R」がそれに影響を及ぼすとは考えにくい。したがって比準価格には影響がなさそうだ。

結論は難しいが、今後、緊急時に拘わらない利用、例えばドローンによる荷物の配送等に利用可能となれば、「H」や「R」の存在が賃料の上昇に寄与し、ある場合の方が価格が高い、ということになるかも知れない。

なお、多くの消防局の設置基準による「H」は、黄色の丸の中に黄色のHと定められており、航空局所管の「場外離着陸場」についても準用されている場合が多いが、ICAO(国際民間航空機関)の基準では、病院のヘリポートには白地に赤のHと規定されており、国内においてもそれへの統一が望まれる。


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