BRIEFING.457(2018.01.25)

事情補正の一方向説と双方向説(2)

前回、「事情の加味」は「事情補正」より容易であろうことを指摘した。対象不動産の取引に係る特殊な事情については、当事者から聴取可能な場合が多いが、取引事例に係る特殊な事情については不可能な場合がほとんどだからである。そうすると、「事情補正」を容認する以上、「事情の加味」も認められるべきである。

しかし現状はそうでなく、ご存じの通り「事情補正」を認めつつ「事情の加味」は認められていない。これらの考え方は次の様に整理することができる。

排除 加味
@一方向説  ○  ×
A双方向説  ○  ○
B逆一方向説  ×  ○
C不可能説  ×  ×

現状(通説)は@説だ。選択可能な事例の範囲が広がる。だが「事情補正」の方法は、理論的とは言い難い「相場逆算主義」(BRIEFING.390参照)を採用せざるを得ない場合が多い。

A説の立場なら鑑定評価の業務の幅が広がる。しかし排除に際してはやはり「相場逆算主義」を容認せざるを得ない。加味については「補正率査定主義」(BRIEFING.390参照)も可能と判断する。

B説も業務の幅を広げるだろう。だが選択できる事例が乏しいことは覚悟せねばなるまい。

C説は当事者の主観や経営判断を測るモノサシなどあり得ない、とする立場だ。

なお、個別的要因比較に関しては、Aの双方向説であることに争いはないし、実務上も定着している考え方である。

ところで、様々な事情の多くは主観的なものであるが、客観的に外部から観察しうる事情もある。隣接地を併合取得する場合である。それにより増分価値が生じ、取得部分を正常価格より高く買っても適正だよという場合である。これは「限定価格」として不動産鑑定評価基準でも認められている鑑定評価額の1つである。これも「事情の加味」の一種と考えることができる。これにより鑑定評価業務の幅は大きく広がっている。

また、証券化対象不動産の「特定価格」も「事情の加味」を認めた鑑定評価額の一種と言えまいか。取引事例比較法に係るものではないが、収益還元法において利回り等に投資目的という事情を加味している。社会の要請に応えるため、「正常価格」ではない鑑定評価額を創り出したのである。業務の幅が大きく広がったことは言うまでもない。

不動産鑑定評価基準に例示のある他の「特定価格」も同様である。

さらに、同基準には位置づけられてはいないが、民事執行法による売却を前提とした「適正価格」の評価に伴う「市場性修正」や「競売市場修正」も「事情の加味」の一種と言えるだろう。


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