BRIEFING.460(2018.03.22)

複合不動産における比準価格の信頼性

昨年3月、国土交通省は「複合不動産に係る鑑定評価手法の精緻化等に関する調査検討業務」の報告書を公表している。その趣旨は、複合不動産について、収益還元法と原価法の精緻化が進んでも「将来予測の不確実性」を踏まえれば、これらによる2試算価格だけでは不十分で、複合不動産については適用困難とされる取引事例比較法の適用に代わるものとして「取引事例価格との比較の観点」を取り込むべきで、その方法の具体的検討が必要だというものである。

複合不動産とは、土地と建物等からなる不動産のことを言うから、通常、市街地で見かける不動産の多くは複合不動産である。その取引事例比較法は、主に建物に着目し、床面積当たりの単価を基礎に適用されるのが普通である。

しかし、複合不動産については、取引事例の詳細把握や精緻な要因比較が困難で、取引事例比較法の適用が(専有床面積当たりの相場が形成されている分譲マンションを除き)困難とされている。実際、複数のビルの価格を比較するに当たり比較項目をどう設定するか考えてみると、それは多岐にわたり多大な項目数となることが分かる。

項目毎の格差の“相場”や“目安”のようなものも確立していない。

その上、そもそも比較の基礎となる事例の詳細把握が困難であるという現実がある。

そこで報告書は、厳格な取引事例比較法の適用はさておくとして、同様の考え方は重視せよと言いたいのだと思われる。

かつて平成バブルを招いた原因の一つとして、比準価格偏重と、収益価格軽視が上げられている。賃料の水準に見合わぬ取引価格は、取引事例比較法で査定されたためだとされ、取引事例比較法は悪者扱いされていたこともある。

しかし、市場において収益還元法またはその考え方が浸透した今、それによる取引価格が市場を先導しているはずであり、そうなった結果、取引事例比較法またはその考え方が、正しく正常価格を指し示しているはずである。

複合不動産について、取引事例比較法が適用しづらいことはすでに述べた通りである。しかしその考え方、アプローチの仕方は、収益還元法や原価法を検証する手段として有効であり、試算価格という形にはならないとしても、鑑定評価額を支える鼎の一つとなりうるものである。

すでに市場では、ホテルなら客室数、病院なら病床数、飲食店なら席数といった、床面積以外の単価の指標も形成されつつある。そこから得られる比準価格(に準ずるもの)は、その業界の人にとって収益価格や積算価格より納得できるだろう。

「収益価格、積算価格は分かったけど、結局、同種の物件と比べてどうなのよ」という不安に対し、「ザックリ比べてこんなところかな」というものが示せれば、案外それは、収益価格や積算価格より信頼性が高いのかも知れない。


BRIEFING目次へ戻る