BRIEFING.470(2018.06.04)

不動産投資法人による不動産の売買価格と鑑定評価額(1)

不動産投資法人は、不動産やその信託受益権を譲渡・取得する際、その不動産鑑定評価額を公表して、売買価格の正当性(安売りや高買いでないこと)を投資家に示している。そして多くの場合、鑑定評価額は、譲渡価格より若干安め、取得価格より若干高めであり、鑑定評価額より「少し高く売れた」「少し安く買えた」ことを示唆している。

これで投資家も安心できるという訳である。

だが、譲渡・取得の相手方にとってはどうだろう。「高く買わされた」「安く売らされた」とはならないのだろうか。相手方の株主にとっては面白くない。背任行為ではないかと言われかねない。

昨年3月、不動産投資法人どうしで不動産(商業ビル)の売買が行われている。双方の譲渡・取得価格(当然同じ)、及び鑑定評価額(両者で異なる)は次表の通りで、それら3価格の関係は「譲渡側評価<売買価格<取得側評価」となっている。

 
  売買価格 譲渡側評価 取得側評価
H29.03.31 H28.12.31 H29.02.28
価格 1,910百万円 1,470百万円 2,010百万円
割合 100 77 105
 

価格時点に2ヶ月間の差があることに加え、そもそも双方の不動産鑑定士(または鑑定機関)の判断が異なるため、両鑑定評価額に差が生じることは変ではない。しかしそれがいつも前述の関係であるとすれば、そこに依頼者の判断や目論見が影響を及ぼしている疑いがある。そうだとすれば、その鑑定評価額は、譲渡・取得価格の正当性立証手段として意味を失ってしまう。

したがって、不動産鑑定士は「公平妥当な態度を保持」(不動産鑑定評価基準総論第1章第4節)し、依頼者への忖度があってはならない。

ところで、投資家は本当に鑑定評価額より「高く売れた」「安く買えた」という話を聞きたがっているのだろうか。そうではなく、むしろ鑑定評価額より「安くても今売るべきだ」「高いが買うべきだ」という投資法人の個別の事情を踏まえた目論見と高度な判断、そしてその理由が知りたいのではないだろうか。

譲渡・取得価格の正当性の立証は、単に鑑定評価額との近似性や安い・高いを示すことではない。それれらは大きな問題ではなく、その相違の原因を説明することによってなされるであろう。

したがって、不動産投資法人は鑑定評価額にこだわってはならない。ましてや、売るときは鑑定評価額以上、買うときはそれ以下などというルールで自らを縛ってはならない。貴重なチャンスを逃すことになろう。

また、このようなルールが逆に鑑定評価額にプレッシャーを掛けるという懸念もある。

勿論「譲渡側評価<売買価格<取得側評価」という関係ばかりが見られる訳ではない。「譲渡側評価≒売買価格≒取得側評価」も多い。しかし鑑定評価額より大幅に安い価格で譲渡するという例は珍しい。次回はその珍しい事例を紹介する。


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