BRIEFING.471(2018.06.11)
不動産投資法人による不動産の売買価格と鑑定評価額(2)
前回、不動産投資法人が不動産やその信託受益権を譲渡・取得する際の価格について、多くは「譲渡側評価<売買価格<取得側評価」となっていることを述べた。投資家には安心してもらえる評価であろう。しかし、最初からそれを意図した鑑定評価であってはならない。
しかし、逆に鑑定評価額より大幅に安い価格で譲渡したという珍しい事例もある。
リーマンショック後の平成22年、資金繰りに窮したある不動産投資法人は、財務体質の向上を図るため、鑑定評価額(及び取得価格)を大きく下回る価格で多くの不動産を譲渡している。わずか5ヶ月間で100超あった物件を半分近くにまで減らしているのだ。
このうち、取得側の鑑定評価額も判明(取得側も不動産投資法人だった)している物件は次表の通りだ。3物件とも譲渡側評価は「慌てて安く売ってしまった」と言わんばかりの自虐的評価である。対する取得側はと言うと、こちらはお約束通りの評価であった。
売買価格 | 譲渡側評価 | 取得側評価 | ||
H22.03.25 | H22.02.01 | H22.02.16 | ||
価格 | 1,250百万円 | 1,450百万円 | 1,270百万円 | |
割合 | 100 | 116 | 102 | |
価格 | 1,180百万円 | 1,360百万円 | 1,210百万円 | |
割合 | 100 | 115 | 103 | |
価格 | 1,010百万円 | 1,250百万円 | 1,050百万円 | |
割合 | 100 | 124 | 104 |
証券化対象不動産の鑑定評価は「依頼者のみならず広範な投資家等に重大な影響を及ぼす」(不動産鑑定評価基準各論第3章第1節U)ものである。それを理解した上でこの評価額が決定されたとすれば歓迎すべきと言わねばなるまい。
なお、譲渡側には、合併による「負ののれん」発生益があり、譲渡損にぶつけたいという特殊な事情があり、これについて「財務上の構造的問題を解消するため(中略)負ののれん発生益を活用した物件売却による財務リストラ」と説明している。
評価に拘束されず、忖度も求めぬ(そうであっただろう)勇気ある投資行動と言えよう。
ただ、結果的に取得側の鑑定評価額との乖離が3物件ともに10数%にもなる点はいかがだろう(価格時点の違いはわずか半月だ)。前回見た事例はその乖離がもっと大きい。これには批判や疑問もあろう。
だが「公平妥当な態度を保持」した結果の評価なら容認すべきで、むしろ「譲渡側評価<売買価格<取得側評価」ありきの評価は許されない。鑑定評価額は1つのセカンドオピニオンである。もう1件鑑定評価を取ればまた結果は異なるだろう。投資家もそれを理解すべきである。
そして不動産投資法人には、評価に拘束されない勇気と責任のある投資行動が期待される。評価に拘束されることでその責任が軽減される訳ではない。