BRIEFING.473(2018.06.28)

改正民法施行前の連帯保証人と極度額

民法改正や近年の家賃債務保証業者を利用した住宅の賃貸借契約の増加等を踏まえ、国土交通省は平成30年3月30日、改定された「賃貸住宅標準契約書」を公表した。同省が従来から作成・公表していたものを「連帯保証人型」として改定したもので、別途「家賃債務保証業者型」も新たに作成している。

なお、同日のプレスリリースには触れられていないが、同時に定期建物賃貸借及び終身建物賃貸借に係る標準契約書についても、同様に改定及び作成がされ、その旨、業界団体宛に通知されている。これら(3×2で計6タイプ)はいずれも国交省のウェブサイトに掲載されている。

さて、今回の民法改正のポイントの1つに、個人根保証契約に極度額の設定を要件化したことが挙げられる。これを受けて標準契約書の「連帯保証人型」には極度額の記載欄が設けられている。改正法施行後は、極度額を定めていない個人の連帯保証契約は無効となるから注意が必要だ。

極度額を定めることは、それまで無制限だった連帯保証人の責任の範囲を限定し、その保護を図るものである。

では、施行前に締結された連帯保証契約は、改正法施行後どうなるであろう。この点、施行日(2020年4月1日)前の締結なら「なお従前の例による」(民法改正法附則21条1項)ため施行後も有効である。土地の賃貸借のように長期間にわたる場合でも有効と見てよいだろう。

では、更新や再契約した場合はどうか。普通・定期・終身に分けて検討する。

(1)普通建物賃貸借契約
契約更新後も有効とすれば、連帯保証人に酷であり法改正の意味がない。更新後は極度額を定めなければ無効としてよかろう。しかし更新に際し極度額の金額で協議がまとまらない場合、それをもって賃貸人側が更新拒絶できるとは考えられず、低廉な極度額で合意ということになる可能性もある。それでは賃貸人に酷だ。両者の利益の調整が求められる。

(2)定期建物賃貸借契約
再契約はその時点の新たな合意によってなされるもの。極度額を定めなければ無効で問題ない。

(3)終身建物賃貸借契約
期間は終身だから更新や再契約はあり得ない。しかし「同居配偶者等の継続居住の保護」(高齢者の居住の安定確保に関する法律第62条)の規定により、賃貸人は、賃借人が死亡してもその配偶者等が一定期間内に申出れば「条件については従前の建物の賃貸借と同一」の契約をしなければならない。これは一種の契約更新と考えられる。したがって(1)と同様に考えるべきだろう。

懸念されるのは、(1)(3)において極度額の合意がスムーズに進むかどうかだ。連帯保証人が「極度額は賃料1ヶ月分だ」と頑なに主張したらどうなるか。それをもって信頼関係が破壊された(契約解除)とまでは言えないだろうし・・。更新後は無効とするのなら、極度額について法務省が何らかの解決指針を示すべきだ。

これまでにも類似の問題はあった。契約更新時に連帯保証人の資力がなく(あるいは死亡しており)、他に適当な連帯保証人もいないといったケースだ。特に土地の賃貸借の場合、契約期間が長いため珍しくない。このような時、3者(賃貸人・賃借人・連帯保証人)は、多くの場合協議をもってこれをうまく解決してきた。今後もそうありたいものである。


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