BRIEFING.475(2018.07.12)

既存の道路を跨ぐ建物の新築

都心における道路用地取得の難しさを克服するため、道路の整備と建物の新築とを同一敷地内で立体的にやってしまおうという制度がある。平成元年の道路法改正により創設された「立体道路制度」である。

この制度を活用したものとしては「虎ノ門ヒルズ」(東京都港区)の地下を潜る環状2号線(新虎通り)の他、制度適用第1号である「ゲートタワービル」(大阪市)の5〜7階部分を貫通する阪神高速11号池田線等がある。

なお、この制度の対象は、@自動車専用道路等、A都市計画道路、B新設・改築といった要件を満たしたものでなければならなかったが、その後の法改正により、現在では都市再生緊急整備地域においては全ての道路が適用対象とされている。

これに基づき既存の一般道路を跨ぐ建物として日本初の建物が先頃竣工した。「大阪梅田ツインタワー・サウスT期棟」である。部分開業した阪神百貨店と言えば分かりやすい。市道を挟んで建っていた2つのビルを、市道上空も使って一体的に建て替えたのである。この区域を「重複利用区域」という。市道は元々あった市道(東梅田線)で、車も人も従来通り通行することができる。

そしてその上空部分は、時々見かける渡り廊下(建基法44条1項、同法施行令145条2項、道路法32条1項)ではなく、百貨店の売場(2〜9階)となっている。

類似の例としては、銀座4丁目の「銀座三越」や同6丁目の「GINZA SIX」がある。

しかしこれらは、区道を挟んだ建物の建て替えに際し、その区道の「付替え」を行って敷地の大街区化を図ったものであり、前述の阪神百貨店とは異なる手法によるものである。区道の当該部分を廃道として建物敷地に加え、それに代えて周辺区道の拡幅等を行なったのである。公共用地面積は増減なしだ。

なお両事例とも、廃道となった部分に「地区施設」として通路を確保し、整った銀座の街区を乱さぬように工夫がされている。但しそれはあくまでも区道ではなく、民有地の通路である。

「銀座三越」の場合、区道427号線(あづま通り)の一部を廃道とし、区道428号線(三原通り)の一部を拡幅して地下駐車場へ続く側道等を整備している。なお、これにより区道427号線は分断されたため、片方は区道710号と改称されている。

「GINZA SIX」の場合も、区道427号線(あづま通り)の一部を廃道とし、区道428号(三原通り)を拡幅して観光バス乗降スペースを設けている。なお、これにより区道427号線は再び分断され、片方は区道714号線とされるに至っている。

その結果、区道427号線は2箇所で分断され、区道427、714、710号線に変わっている。しかし分断部分も道の形態は維持され、伝統的愛称「あづま通り」の名称とともに今も残されている。

ところで「銀座三越」内の「あづま通り」は「パサージュ」(フランス語で「通過」「小径」)と称され、これに面して「パサージュ口(東)」と「パサージュ口(西)」の出入口が設けられている。これに対し「GINZA SIX」内の「あづま通り」は「あづま通り」であり、これと直行する館内の通路を「銀座パサージュ」と称している。方向が90度異なるのにどちらも「パサージュ」。別々のプロジェクトとは言え、何か気持ちの悪さが残る「パサージュ」である。


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