BRIEFING.477(2018.08.27)

「配偶者居住権」の創設と評価

先月6日、参議院本会議で改正民法が可決・成立した。この改正は同法の相続分野の規定を見直すもので、配偶者(夫を想定)を亡くして残された配偶者(妻を想定)が、故人所有であった今までの住まいに、その所有権を得ずとも終身住める権利「配偶者居住権」を創設するのがポイント。自宅の評価額は遺産総額の過半を占める場合が多く、残された配偶者が自宅を相続し、金融資産を子供達が相続した場合、配偶者はその後の生活費に困窮するものと考えられる。その不安を解消するのが狙いだ。

これまででも「リバース・モーゲージ」や「リース・バック」により、従来の住まいに住み続けつつ生活費を確保する方法があるものの、長生きすることのリスクが把握できない等の理由から、利用する側にも提供する側にも不安があり条件も厳しく、普及しているとは言い難い。

その点「配偶者居住権」の存続期間は終身が原則であるから納税や生活費捻出のために自宅を他人に売却してしまっても、利用する側にとって安心だ。しかし逆に、提供する側(建物の買主・所有者)にとっては、付着した他人の権利がいつまで存続するか分からず、不安を一方的に押しつけられる形になる。

配偶者の死亡以外に、この権利が消滅する事由としては、(期間が定められている場合の)期間満了、目的建物の滅失等、配偶者の意思表示、建物所有者と配偶者との合意、のみである。権利の譲渡はできず、勝手な増改築もできないものの、建物を無償(通常の必要費は負担)で終身使用できるから、その価値は高い。

ではその価値は如何ほどであろうか。逆にその権利の付着による減価はどれくらいだろうか。相続税の課税、及び遺産分割に当たって、それを評価する必要がある。その決め手は存続期間なのだが、それが「終身」であり、1年間かも知れないし20年間かも知れない。そこで参考になるのが平均余命である。

平均余命は、ある年齢の人が、平均して後何年生きられるかを男女別に示した数値である。厚生労働省が先月公表した「平成29年簡易生命表」によると60歳なら男23.72年、女28.97年である。70歳なら15.73年、20.03年である。人により健康状態や生活環境によって個人差があることは想像に難くないが、課税や遺産分割といった評価の目的を勘案すれば、簡素で公平である必要があり、これに依存して評価することは合理的と考えられる。

その評価方法については、賃料と平均余命を基礎とする方法と、価格と平均余命を基礎とする方法が考えられる。前者は期間中の賃料相当額の現在価値の総和、後者は期間後に復帰する価格の現在価値と今の価格との差、ということになろう。それぞれ期間中に負担が予想される諸費用の現在価値は控除する必要がある。また、賃料にせよ価格にせよ、まずそれ自体の評価が必要で面倒だ。

では、「配偶者居住権」価格と、その負担付所有権価格との関係は、合計で100ということでよいだろうか。この点、日本不動産鑑定士協会連合会は「一般にこの控除主義は(中略)成立しないと考えるのが妥当」と意見を述べている。確かに合計が100に満たないことは想像できる。だが、簡素・公平を重視すればそこまで言わなくても・・・との思いもある。

いずれにせよ、負担付き所有権者は、配偶者居住権者の早期逝去で思いがけない利益を得、想定外の長生きで不測の損害を被る。さてこの時、負担付所有権者が、その土地建物を買い受けた他人ならどうだろう。そいつは弱った獣の死を待つハゲタカのような奴か。いやいや、不安のない老後の住まいを提供するエンジェルと解し、このような人の出現を歓迎すべきである。


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