BRIEFING.478(2018.09.03)

一戸建住宅の利回り(1)

不動産の価格は賃料から(収益還元法により)、賃料は価格から(積算法により)それぞれ求めることができる。それは、価格と賃料の関係を「利回り」が取り持っているからである。

すなわち、価格=賃料÷利回りであり、賃料=価格×利回りであり、利回り=賃料÷価格である。なお、ここでの利回りは、純収益利回りではなく、取引利回りとする。

ただ、現実には、市場の価格から求められた賃料が、市場の賃料と乖離し、市場の賃料から求められた価格が市場の価格と乖離するということが見受けられる。特に一戸建住宅やファミリータイプのマンションの場合である。

次表は、郊外一戸建住宅にありがちな価格と賃料の関係である。

供給側 需要側
賃料 30万円/月 15万円/月
価格 4,500万円 4,500万円
利回り 8% 4%

相場が4,500万円の一戸建なら30万円/月の賃料がほしいが、現実には15万円/月でしか需要がなく、賃貸借は成立しない。仮にその賃料を前提にすれば価格はうんと下がる、という具合だ。一戸建住宅の積算賃料は高く求められ、収益価格は低く求められるという不動産鑑定業界の「公理」とも言うべき現実である。

事務所・店舗ビルなら、一定の利回りを介して市場の価格・賃料が概ね均衡するのだが・・・。

そこで供給側の賃料を市場の賃料にまで下げてみる。すると次表の通り、4%の利回りで価格・賃料が均衡することが分かる。取引利回りで4%だから、純収益利回りでは3%程度であろうか。これでは賃貸一戸建住宅が市場に供給されることはない。

供給側 需要側
賃料 15万円/月 15万円/月
価格 4,500万円 4,500万円
利回り 4% 4%

この賃料の格差は、同じ物(一戸建住宅)から得られる効用なのに、それを持っている場合の方が借りている場合より大きいことが原因だろう。さらにその理由として次のことが考えられる。

@値上り期待説・・値上がり益は持家に恩恵があるが借家には少ない。
A増改築自由説・・持家と異なり借家では増改築が制限され利用価値が低い。
B利用効率説・・・一戸建住宅を借りても十分に使いこなせず非効率。
C税制優遇説・・・小規模宅地の相続時評価減等、持家には税の優遇がある。

次回、それぞれについて検討する。


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