BRIEFING.483(2018.10.11)

借家権割合40%の謎

国税庁の財産基本通達第3章(家屋及び家屋の上に存する権利)94には「借家権の評価」について定められている。それによると、借家権の価額は次の算式により計算した価額によって評価される。なお、「借家権割合」は国税局長の定める割合であり、「賃借割合」は賃借している床面積の割合である。

「その借家権の目的となっている家屋の価額」×「借家権割合」×「賃借割合」

この「借家権割合」が毎年「財産評価基準書」によって、路線価等とともに公表されていることはご存知の通りだ。平成30年分については去る7月2日から国税庁HPで閲覧可能となっている。そしてこの「借家権割合」は現在、全国どの国税局管内でも100分の30とされている。

但し、かつて大阪国税局管内(市制地及び路線価地域に限る)だけは40%であったことをご記憶の方も多いだろう。これは平成18年から30%に改められ、全国一律となった訳だが、その理由について、当時、国税庁や大阪国税局から何の発表もなく、税や不動産の専門家からの解説も聞こえてこなかったように記憶している。

この改正は、貸家の評価のみならず貸家建付地の評価にも大きく影響(増税に直結)することから管内の関連業界は揺れたが、全国一律の方が公平妥当、単純明快であることから、大きな反論はなかったのだろう。

だが、そもそも何で大阪国税局だけ40%だったか・・・という疑問を今でもお持ちの方は多いのではないか。その理由として私案ながら以下に3説を掲げてみる。

@高額償却・敷引き先取り説
今では考えられないが、かつて大阪では、貸主が高額の保証金や敷金を取った上、その半分程度を償却や敷引きと称し、権利金・礼金同様に収益として取ってしまう習慣があった。もちろんそれは契約にも定められていることで(消費者契約法のない当時としては)全く問題のないことである。保証金・敷金が12ヶ月分で償却・敷引きはその内の6ヶ月分といったところか。これを賃料の先取りと解せば、その分、借主が強いはずだ。売主(貸主)と買主の関係で見てもその分、売買価格が安くなるのは道理だ。したがって借地権割合が高いのだ。

A保証金・敷金返還債務持回り説
大阪には貸家を譲渡する際「敷金返還債務持回り」という習慣がある。売買に際し貸主(売主)は上記@の償却・敷引きは勿論のこと、将来借主に返すべき分も買主に引き渡さず、「敷金返還債務」込みで売買価格を協議・決定するのである。当然その分、売買価格は安くなる。すなわち借家権割合が高くなるという訳だ。

B更新料なし説
東京では2又は3年毎の契約更新時に、貸主は更新料を取る。賃料1〜2ヶ月分程度だろうか。大阪ではほとんど見られない習慣である。大阪の借主は今後も更新料を払うことなく住み続けられるという強い権利を持つとも言える。しかし更新料支払い直前の借家権は弱いものの、支払い直後はむしろ強いと言うことができ、やや説得力に欠ける説である。

そうすると@Aが借家権割合を10%押し上げたと考えられる。但し、同じ大阪国税局管内でも京都の習慣は東京タイプであるし、滋賀や奈良で@Aは当たらない。大阪市内だけ40%というのなら辻褄が合うのだが・・・。その辺り明るい諸兄のご教授を賜りたい。


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