BRIEFING.486(2018.11.21)

「家屋調査」とは

解体・新築工事の施工に伴う振動は、周辺の家屋に損傷を与える場合があり、施工業者がその損害に対し責任を負うのが原則である。しかし、その損傷が施工に伴うものか、前からあったものか、判断が難しい場合が多い。

そこで施工業者は、着工前に周辺の家屋外部・内部を調査し、写真に納め、事後の争いを防ぐ手立てとしている。法令で定められた制度ではないが、その必要性から生まれた任意の制度で「家屋調査」と呼ばれている。施工者は、第三者的立場である調査会社にこれを依頼し、調査の中立性を確保(とは言っても施工業者の費用で発注)するのである。

壁にクラックがあればそれにスケールを当てて写真に納める。柱に傾きがあれば下げ振りをぶら下げた上でスケールをあてて写真に納める。床が傾いていたならレーザーレベル測定器でレーザー光線を当てて室内の様子を写真に納める。これらが重要な資料となる。

他に「家屋調査」と呼ばれるものには、家屋を新築・増改築した際に、市町村が固定資産税課税のために行う調査がある。その評価員等は、地方税法第353 条による「調査に係る質問検査権」を有し、調査のために帳簿書類等の検査をし、資材・施工の状況等を確認し、総務大臣の定める固定資産評価基準によって評価額を算出する。立入を拒むことも可能だが、拒むと高めに評価される(固定資産税が高くなる)という説もあるが真偽は不明だ。

他に土地家屋調査士が行う、建物の表示登記に必要な調査を「家屋調査」と呼ぶことがある。土地家屋調査士法第3条第1項第1号に定められている業務である。この調査に伴い不動産登記令や登記規則に定められた建物図面や各階平面図も作成される。

建築基準法第12条第1項に定められる建築物の「状況の調査」は「家屋調査」と混同されがちな制度である。建築物の所有者は、その調査結果を定期的に(原則として3年に1回)特定行政庁に報告しなければならない。

また、宅建業法第35条の重要事項説明において説明が義務づけられた「建物状況調査」(同条第1項第6号の2)も混同され易い。これは目視等を中心とした非破壊による現況調査であり、インスペクションとも呼ばれる。国土交通省では、消費者等の信頼の確保と円滑な普及を図るため「既存住宅インスペクション・ガイドライン」を作成している。

さらに、不動産鑑定評価における建物の再調達原価の把握や減価修正も「家屋調査」に類するものと言えよう。中でも、不動産鑑定評価基準各論第3章「証券化対象不動産の価格に関する鑑定評価」でその活用が義務づけられているエンジニアリングレポート(ER)は詳細な「家屋調査」である。いわゆるデューデリジェンスの一環であり、(公社)ロングライフビル推進協会(BELCA)では、ER作成に係るガイドラインを作成している。

この他にも「家屋調査」に類するものとして、自然災害の際に、市町村職員等が「災害の被害認定基準」(内閣府)等に基づき、全壊・大規模半壊・半壊の認定をする調査、さらに、応急危険度判定士が当面の使用の可否を、危険(赤)、要注意(黄)、調査済(青)で判断しステッカーを貼るための調査もある。

これらは、根拠法や目的、手法、程度を異にし、携わる人も違う。しかし共通する部分があることも確かだし、一部は相互に関連付けられている。一度これら全てに横串を通して整理し、包括的かつ合理的な制度の構築を検討してみてはどうだろうか。


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