BRIEFING.490(2019.01.09)

蛍光灯の製造中止と貸家の照明器具

白熱灯や蛍光灯といった既存の照明に代わりLEDの普及が進んでいる。LED等の光源はSSL(半導体照明)と呼ばれ、既存照明からそれへの流れをSSL化と言う。これに伴い各家電メーカーは、白熱灯はもちろん、蛍光灯についても順次製造を中止、またはその予告をしつつある。

LEDは、消費電力の少なさ、寿命の長さに優れ、建築物省エネ法(大規模新築非住宅に省エネ基準のクリアを義務付け)施行の後押しもあって、全ての照明がこれに置き換わってゆくことは間違いない。白熱灯にも独特の魅力があり、特に透明ガラスの白熱灯の眩しさは捨てがたいが、それとそっくりのLED球もあるから心配は無用だ。

今から10年近く前の平成21年12月に閣議決定された「新成長戦略(基本方針)」には「LEDや有機ELなどの次世代照明の100%化」が登場する。翌年6月には「エネルギー基本計画(第2回改定)」が閣議決定され「高効率次世代照明(LED照明、有機EL照明)については、2020年までにフローで100%、2030年までにストックで100%普及させる」という具体的目標が示されるに至っている。

一方で、まだまだ使える蛍光灯用の器具をLEDに換えるのはもったいないから、当面、蛍光灯の製造・販売は続けてほしいという思いもある。フローはともかくストックは動きが鈍そうだ。

ところで、多くの賃貸物件においては、事務所でも住宅でも、その照明器具は賃貸人の設備(住宅では居間・食堂のみ賃借人が付けるタイプもある)である。しかし、タマ替えは全て賃借人の負担で、というのが普通であろう。

但し、国交省の賃貸住宅標準契約書(平成30年3月改定)は、第9条第5項及び別表第4で「電球、蛍光灯の取替え」を「修繕」と捉えた上で「甲(賃貸人)に修繕を請求」できるとしている。もちろん、特約で乙の負担とすることも可能であるが、原則は甲の負担なのである。なお「乙(賃借人)が自ら修繕を行う場合」は「費用は乙が負担」と妙な規定になっている。

タマ替えが「修繕」とすれば、「賃貸人は賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う」という民法(606条1項)の原則に照らし、甲の負担を原則とするのは当然と言えよう。

さて、民法や標準契約書の原則はさておき、多くの契約では前述の通り、タマ替えは賃借人負担である。そんな中、蛍光灯が市場から消えたとしたら、両者はどう対応すべきだろうか。白熱灯用または電球型蛍光灯用ソケットになら、賃借人が電球型LEDを買ってきて装着すればよい。従来とさほど変わらない。しかし問題は直管や丸形(サークライン)蛍光灯用の器具の場合である。

蛍光灯用の器具を改造して装着可能なLEDも一部のメーカーから出てはいるものの、改造にそこそこの費用がかかる上、安全性の不安も拭えず、推奨すべき方法とは思えない。器具の交換は避けられまい。ではこのような場合、器具の取替えはどちらの負担と考えるべきだろうか。

この点、民法の原則が賃貸人負担である以上、賃借人負担とした特約は限定的に捉えるべきで、賃貸人の負担で取替えるべきであろう。

広い事務所の場合、見栄えを考えて全部一斉にということになろうから賃貸人の負担は大きい。しかも入居しつつの施工となれば養生が必要な上、夜間・休日の作業となるかも知れない。

今のところ蛍光灯はまだ市場に流通しているが、問題の顕在化は目の前である。


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