BRIEFING.495(2019.02.26)

賃貸保証会社の利用と賃貸住宅の収益価格

賃貸住宅や事務所を貸す場合、賃貸人は賃借人に対し、賃料の支払等を担保するため、敷金・保証金等の名目で預かり金的性格の一時金を預かる。賃貸借契約が終了した時には、賃借人の債務が残っていないことを確認の上、これを賃借人に返還する。

かつては、賃貸住宅で賃料6ヶ月分程度の敷金が預託されていたが、今ではもっと少額になっている。契約時、多額の初期費用を嫌う賃借人の意向が反映された結果であろう。

そうなると、賃貸人にとって心配なのは、賃料の滞納である。2〜3ヶ月分の敷金では簡単に損害額がそれを上回ってしまう。いくらかの貸倒れは覚悟しておかねばなるまい。

不動産鑑定評価において収益価格を求める場合、「貸倒れ準備費」を「総費用」に加える(または「貸倒れ損失」を「総収益」から控除する)が、実務上「敷金で担保」を理由にそれを0円とすることが多い。しかし2〜3ヶ月分では非現実的との批判もある。

そんな中、活用が進んできたのが、賃貸保証(家賃保証)会社である。賃借人に、保証会社との保証委託契約(保証料は賃借人負担)を義務付けるのである。

賃貸保証会社は、一時、強引な督促や自力救済に近い行為が問題となったが、今日では概ね正常化し、賃貸住宅市場を支える重要なプレイヤーのひとりとして定着したと言ってよいだろう。非弁行為ではないかとの問題もあったが「賃貸人から取得した求償権の行使」であるという整理で解決したと考えられる。

これにより、賃貸人がその物件の収益性を判断する場合に、敷金なしでも貸倒れを見込んでおく必要がなくなったと言える。賃貸人の負担なしにリスク回避できるから、求められる収益価格が上昇するとも思える。加えて、借家人賠償責任保険契約(保険料は賃借人負担)も義務付けておけばさらにリスクが減らせる。

しかし賃借人にとってはどうだろうか。敷金は不要になったとしても、賃料等以外に保証料、保険料を負担しなければならないとなると、支払える賃料にしわ寄せがくることは容易に想像できる。そうすると市場の賃料水準が下がり、収益価格を下落させると考えられる。

貸倒れへの準備が不用(総費用の減少)になる一方で、想定される賃料が下落(総収益の減少)すれば、収益価格への影響はニュートラルである。

かつて、賃貸人と賃借人という両当事者間だけで完結していた取引に、保証会社、保険会社という第三者が現れ、そこへ支払われる金銭があるということに留意が必要である。賃貸人には何の痛みもないが、賃借人が保証料と保険料を負担していることを忘れてはならない。

賃借人が負担していたリスクが保証会社・保険会社へ移り、その代わり、賃貸人が収受していた賃料の一部(リスクに相当する金額)が保証会社・保険会社へ分配されたと説明することができる。そのリスクと配分される金額とが均衡していれば、当該賃貸住宅の収益価格に変化はないと考えることができる。


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