BRIEFING.497(2019.04.01)
自社ビル隣接更地の併合取得と増分価値
ある土地の所有者が、その隣接土地を併合取得した結果、併合後の土地の価値が、元々の両土地の価値の合計を上回る場合がある。その上回る部分の価値を、不動産鑑定評価では「増分価値」と呼ぶ。土地の形状の改善、道路の接面条件の改善等に依るものである。
しかし、両土地が併合による「増分価値」を生む関係にあったとしても、その土地の一方または両方に建物が建っており、その残存耐用年数がまだ十分にある場合には、併合によるプラスの効果が出にくい、または出ないことがある。
例えば、下表上段の自社ビル(築25年、延1,200u)敷地と、背中合わせである中段の更地が売りに出されたとする。
形状 | 地積 | 接面方位 | 街路幅員 | 指定容積 | 基準容積 | |
自社ビル | 正方形 | 400u | 北 | 5m | 600% | 300% |
隣接更地 | 正方形 | 400u | 南 | 10m | 600% | 600% |
併合後土地 | 長方形 | 800u | 南北 | 10m | 600% | 600% |
併合により、これらが下段の二方路地となると使い勝手が良くなる上、街路幅員によって制限を受けていた自社ビル敷地の容積率も600%まで利用可能となるから「増分価値」は大きい。
しかし、現実には現存する自社ビルがその発現を阻害することになる。
自社ビルの増築という扱いで、隣接更地に、併合後土地の容積を使い切るビルを建てる手もあるが、最初から1棟の建物を新築するのに比べ、非効率であることは間違いない。
しかも、増築部分を今後50年間使うとすれば、築25年の既存部分は築75年にもなる。しかし自社ビルを今すぐ壊して全面建替え、というのは勿体ない。思案のしどころだ。
加えて、隣接更地にもビルが建っていたらどうだろうか。合棟の上、増築というのもあり得るが現実的でない。「増分価値」を得るチャンスを見送るか、取得だけして「増分価値」の享受は遠い将来(両ビルの同時建替え時)のお楽しみとするか・・・。
併合による「増分価値」の生じ方は次の3つに分けられる。
@すぐ具現化する(更地どうしの併合)。
A一部具現化するが将来のお楽しみもある。
B全く具現化しないが将来のお楽しみがある。
そして、現時点における「増分価値」を把握するためには、すぐに具現化する「増分価値」と、将来のお楽しみである「増分価値」及びその実現までの期間を見積もらなければならない。その場合、取得者の目論見を参考にしつつも、その主観や希望のみに依らず、客観的に検討することが大切である。