BRIEFING.502(2019.05.30)

27年ぶりの「不動産業ビジョン」、「不動産最適活用」とは

国土交通省不動産業課は、社会資本整備審議会産業分科会不動産部会でとりまとめた「不動産業ビジョン2030」を公表した。「不動産業ビジョン」は建設省時代のバブル前夜とも言える昭和61年と、バブル崩壊後の平成4年に策定され、今回は3回目、27年ぶりの策定となる。

今回、そしてこれまでの「不動産業ビジョン」のタイトルとサブタイトルは以下の通りである。

@昭和61年「21世紀への不動産業ビジョン〜高い信頼性と豊かな創造性ある産業を目指して」
A平成4年「新不動産業ビジョン〜21世紀の社会経済ニーズに応えるために」
B令和元年「不動産業ビジョン2030〜令和時代の『不動産最適活用』に向けて」

昭和61年のビジョン策定時は、誰も「バブル」が膨らみつつあることなど知る由もなく、業界はこのビジョンをバイブルとし、サブタイトルの通り、業務に励んだものである。

当時の業界は、サブタイトルの裏返しで「高い信頼性と豊かな創造性」が欠如していたと言わざるを得ない。それでも今、読み返してみると・・・インテリジェント・ビル、ニューメディア、いきがい村、東京の国際金融センター化・・・当時の前向きでわくわくするような時代の空気が伝わってくる。出版された書籍の表紙は濃い黄色と青色でデザインされており、今、実物を見ればこの本を知る業界人には、高揚感と懐かしさがこみ上げてくるのではないだろうか。

さて、今回のビジョンのポイントは、サブタイトルに出てくる「不動産最適活用」であろう。これは、一般にも業界においても聞き慣れない言葉である。「有効活用」や「最有効使用」ならよく耳にするのだが。これについて、本文の「はじめに」では次の様に述べている。

「・・・これからの不動産業、不動産政策には、時代や地域のニーズを的確に把握し、それに応え得る不動産を形成するとともに、それらが社会において最適に活用されること、いわば『不動産最適活用』を通じて、個人・企業・社会それぞれにとって価値創造の最大化を支えることが期待されている。」

さらに、第三章には「官民共通の目標」として(1)「ストック社会」の実現、(2)安全・安心な不動産取引の実現等、合計7項目が掲げられているが、その内の(4)エリア価値の向上、に「不動産最適活用」が、次の通り説明されている。

「不動産は、国民生活や経済活動を支える不可欠の基盤であるが、具体的に期待される役割は、不動産の規模・用途等によって異なるほか、地域の実情によっても異なり得る。重要なことは、地域の実情に応じて期待される不動産の「場」としてのあり方(=『不動産最適活用』のあり方)が地域の関係者によって認識された上で、その実現を図るべく地域全体でマネジメントしていくことである。」

また「民の役割」として、@開発・分譲、A流通、B管理、C賃貸、D不動産投資・運用、の各業態において「不動産最適活用」が求められている。一方「官の役割」に「不動産最適活用」は出てこない。すなわち「不動産最適活用」は民に期待され委ねられているものなのだろう。

最後に、今回のビジョンに登場し、昭和61年のビジョンには見られなかった用語を拾ってみた。

ESG、SDGs、Society5.0、シェアオフィス、クラウドファウンディング、スーパーメガリージョン、インスペクション、コンバージョン、空き地・空き家、不動産を「たたむ」・・・。

「不動産最適活用」実現のためには、まずこのような背景を理解する必要がありそうだ。


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