BRIEFING.505(2019.07.11)

施工不良と不動産鑑定

昨春に施工不良問題が表面化した賃貸アパート大手のL社は、先日、過去に施工した物件の内、新たに3,000棟近くの物件に施工不良が見つかったことを公表した。それまでの公表分と合わせると20,000棟近くにもなる。報道によると、天井裏に延焼を防ぐ界壁がなかったり、施工されていても隙間がある等が主な施工不良箇所だったようである。

同社を弁護するつもりはないが、そのことが住み心地や賃料に影響する訳ではないから、火災が起こらない限りは、施主(オーナー)にとっても、入居者(賃借人)にとっても何ら支障はないと言うこともできる。入居者の中には、天井から隣の音がよく聞こえるなと感じた人がいたかも知れないが、そもそも遮音性を重視した物件ではないから、こんな物かと思っていたのではないだろうか。だが万一火災が発生したら大変である。

さて、工事完了の結果を確認・検査・調査すべきしくみとしては次の5つが考えられる。

@工事監理者による確認
A建築主事または建築確認審査員の検査
B工事施工者の検査
C施主の検査
D固定資産評価の担当職員等の調査

この内、Cは素人である場合が多く検査は形式的なものである。Dも設計図書による調査が主でそもそも調査目的が異なる。また悪意があれば@Bの検査も意味がない。最も期待されるのがAだが、全てを見るわけではなく、現に前述の件は見落とされた訳である。

では、仮に「不動産鑑定評価」を行っていたとしたらどうだろう。

「不動産鑑定評価」では天井や床をめくっての調査はせず、室内外の「目視」のみが通常だから、施工不良は発見できず、それが価格に織り込まれることもなかったであろう。

収益目的の不動産だから収益価格重視で・・・と「レントロール」にばかり凝視し「レンタブル比」も高く「プロパティマネジメント」も「リーシング」も問題ないから「キャップレート」はこれくらいで・・・といった具合だったであろう。目的が検査ではなく評価だから仕方ないが、前(不動産)を見ず、下(資料)ばかり見ていてはいけない。

精緻な「DCF法」で評価してますから大丈夫です、と言われても天井裏の界壁がないことを見落としていれば万事休すだ。

今回の騒動で施工不良が発覚して以降、その価格も賃料も大幅に下落したであろうことは容易に想像できる。「不動産鑑定評価」の出る幕はない。

住宅や商業・流通施設大手のD社の不適切物件は、それまで公表していた2,000棟超に加え、先月の公表分1,900棟があって合計約4,000棟だと言う。報道によると、こちらは、国の認定を受けていない基礎を使ってアパートや一戸建住宅を施工していたと言う。この場合も、それを見破る力は「不動産鑑定評価」にはない(義務もない)と思われる。

では、これらの問題への対応は、誰に求められているのだろうか。


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