BRIEFING.509(2019.09.06)

将来予測される変化に対する価格・賃料の「感応度」

不動産を買う場合に必要な対価「価格」と、借りる場合に必要な対価「賃料」との本質的な違いとしては次の点が挙げられる。

@賃料は一定期間の使用の対価であり、価格は永久の使用の対価である。
A賃料は将来改定(増減)があり得るが、価格が後から変更されることはない。

そして@Aから導かれることとして次の違いも指摘することができる。

B賃料は将来予測される変化に対する「感応度」が低く、価格はそれが高い。

証券業界では、ある証券価格が市場の変化に対してどの程度反応するかを示す指標を「感応度」と呼ぶ。例えば、債権価格はその残存期間が長いほど金利に対し感応度(金利感応度)が高く、輸出関連株は為替に対し感応度(為替感応度)が高いことが知られている。

不動産の価格にも様々な条件の相違に対する「感応度」がある。賃料に関しても同様である。そして、同一の不動産の価格と賃料とでも「感応度」が異なると考えられる。

中でも、将来予測される変化に対する「感応度」は、価格において高く、賃料においては低いと考えられる。以下に4つの例を挙げ考えてみる。

●築20年と30年の住宅を想定する。両者の賃料に大差ない。今の一定期間(例えば1ヶ月間)の使用価値に大差がないからである。では価格はどうだろう。築30年ともなると、使用収益可能な期間の先が見えてくるため、立退き、取壊し等を勘案した価格になり、築20年とは明確な差が付くと考えられる。

●敷地の一部に瓦礫が埋まっている土地を想定する。この土地を借りて低層の建物(一戸建住宅やコンビニ)を建てて使用する予定で、その新築に何ら支障がないとすれば、その賃料は、瓦礫がない場合と比べほとんど下落しないだろう。しかし買う場合はどうだろう。今は支障がなくても、将来、杭基礎の中高層建築物に建て替えるのには支障が出ると予測されれば、価格はそれを反映して下落するだろう。

●近くに鉄道の新駅が開業されることとなった地域を想定する。利便性の向上は確実だ。しかし、その実現が数年先ともなれば賃料相場は、すぐには動かない。当面利便性に変化はないからである。仮に今から安く借りていても、開業の暁には賃料改定(値上げ)が見込まれる。賃料相場が動くのは開業間近になってから。価格は先行して上昇すると考えられる。

価格は未来永劫の賃料先払いであり(@)、しかも将来その増減を協議する余地もない(A)。したがって売買契約の際、予測される将来の事情を全て織り込んだ価格が形成される。それに対し、賃料は一定期間毎の支払いであり(@)、しかも協議によって将来その増減が可能である(A)。したがって、賃貸借契約の際、さほど将来の事情を気にする必要はないのである。その結果、将来予測される変化に対する価格の「感応度」は、賃料のそれより高いと考えられる。

賃料は顕在化した価値を反映し、価格はそれに加えて潜在的価値をも反映すると言うことができる。その性質の根源は、価格と賃料との本質的な違い(@A)に見出せるのである。


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