BRIEFING.510(2019.09.20)

賃借物の一部滅失等と免責

改正民法の施行が来年4月1日に迫ってきた。改正点のうち、建物の賃貸借に関し「賃借物の一部滅失等による賃料の減額等」(法611条1項)は貸主にとって悩ましいところである。滅失等の程度の判断が困難な上、それによる適正な減額の程度がはっきりしないからである。

これを踏まえ、国交省は平成30年3月、賃貸住宅標準契約書と定期賃貸住宅標準契約書の改訂版を公表している。それぞれについて「家賃債務保証業者型」と「連帯保証人型」とがあるが、いずれにおいても第12条第1項に「・・・その使用できなくなった部分の割合に応じて、減額されるものとする。」とある。さらに「この場合において、甲及び乙は、減額の程度、期間その他必要な事項について協議するものとする。」と続けている。

では「使用できなくなった部分の割合」とは? 

そこで、国交省の「賃貸借トラブルに係る相談対応研究会」は「民間賃貸住宅に関する相談対応事例集〜賃借物の一部使用不能による賃料の減額等について〜」(平成30年3月)を参考として公表している。但しこれは事例集であってルールブックではない。

一方、(公財)日本賃貸住宅管理協会は、平成30年5月「改訂版・居住用建物賃貸借契約書」を公表している。その第9条には、国交省の標準契約書第12条第1項と同じ文言が定められている。そして減額の割合を協議する際の参考として別途「貸室設備等の不具合による賃料減額ガイドライン」も作成・公表している。

それによると、「電気が使えない」「ガスが使えない」「水が出ない」をA群とし、それぞれについて10〜40%の賃料減額割合、及び2〜3日の免責日数を定めている。なお、減額割合は日割り賃料に対して乗じられる。

A群のいずれにも該当しない場合に「トイレが使えない」「風呂が使えない」「エアコンが作動しない」「雨漏りによる利用制限」等のB群の賃料減額割合及び免責日数に従って計算する。

減額割合について、全く基準がないところから協議するよりは大きな前進である。また、免責日数を定めたことは、わずかな減額のための面倒な協議を省くため、双方にとって有意義である。詳しくは同ガイドラインでご確認いただきたい。

だが現実には「エアコンが作動しない」の程度にはいろいろあるし、季節によってその影響も様々だ。「雨漏りによる利用制限」の判定も難しい。

施行まで間もなく半年を切る。賃貸借の両当事者にとって、簡単明瞭で、容認し易い取り決めの方法が望まれる。公平性は大事だが、協議に多くの時間を要することになれば双方にとって面白くない。ルールができたために返って協議に要する負担が増えてしまわぬようにしたい。

かつて「大家さん」は「店子」の就職や縁談にまで係わったと言う。その代わり「店子」は、多少の不具合を容認した。しかし現代は「事業者」と「消費者」の関係である。その善し悪しは別にして。


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