BRIEFING.513(2019.11.29)
積算価格と将来の取壊し費用
不動産の価格を求める鑑定評価手法の1つに原価法がある。原価法は、価格時点における対象不動産の再調達原価を求め、この再調達原価について減価修正を行って対象不動産の試算価格を求める手法である。この手法による試算価格を積算価格という。
ここで土地の再調達原価は、開発素地の取得費に標準的な造成費と通常の付帯費用とを加算して求めるべきなのであるが、その想定が困難であることから、実務上は市場で購入することを想定して求められる場合が多い。そして、建物の再調達原価は、建設請負により、請負者が発注者に対して直ちに使用可能な状態で引き渡す通常の場合を想定し、発注者が請負者に対して支払う標準的な建設費に通常の付帯費用を加算して求められる。
次に、求められた再調達原価について減価修正を行うが、減価修正の方法には、@耐用年数に基づく方法と、A観察減価法があり、これらを併用するものとされている。
ところで、これらの段階で、将来の取壊し費用が考慮されていない点は、従来から指摘されていることである。不動産鑑定評価基準では、建物が新築の時はもちろん、年月を経ていても「建物取壊しが最有効使用」と判断される場合を除き、建物取壊し費用を考慮しないのが原則なのである。
確かに、新築早々に取壊し費用を気にする人は市場に少ないだろう。そうすると市場に成り代わるべき鑑定評価においても、考慮する必要はないのかも知れない。しかし、一般の市場人より少し慎重な態度、少し踏み込んだ調査をするというのも鑑定評価である。
では、将来の建物取壊し費用は、新築時点でどの程度考慮すべきなのであろうか。取壊しが50年先と仮定し、いくつかの割引率でその現在価値を試算してみる。
割引率\年 | 1 | 2 | 10 | 20 | 30 | 40 | 50 |
5.0% | 0.952 | 0.907 | 0.614 | 0.377 | 0.231 | 0.142 | 0.087 |
3.0% | 0.971 | 0.943 | 0.744 | 0.554 | 0.412 | 0.307 | 0.228 |
1.0% | 0.990 | 0.980 | 0.905 | 0.820 | 0.742 | 0.672 | 0.608 |
0.1% | 0.999 | 0.998 | 0.990 | 0.980 | 0.970 | 0.961 | 0.951 |
上表の数値は複利現価率である。年5.0%で割り引けば、1年後の1は0.952という訳である。仮に新築した建物の再調達原価が10億円だったとし、その建物取壊し費用が1億円だったとすれば、50年後に必要となるその費用の現在価値は、割引率5.0%で870万円であり、再調達原価の0.87%である。40年後としても1.42%であるから、無視しても問題なさそうである。
しかし、近年の超低金利(しかも短期金利だけでなく長期金利も)を反映したとすればどうだろう。50年後としても、割引率3.0%なら2.28%、1.0%なら6.08%、0.1%とすれば9.51%で、取壊し費用そのものと大差ない。通常の金利水準(5%程度?)の世界とは異なる認識が必要である。
企業会計基準では、新築の建物であっても「有形固定資産の除去に関して法令または契約で要求される法律上の義務及びそれに準ずるもの」について「資産除去債務」の計上が要求されている。
不動産鑑定評価では、前述の通り積算価格には考慮されず、収益価格においても同じ(還元利回りに織り込まれているか?)、比準価格においても同じ(市場の取引価格に織り込まれているか?)である。認識しておかねばならない問題である。