BRIEFING.517(2020.01.16)

満室稼働の収益物件とその評価

いわゆる収益物件とは、自らは使用せず賃貸収益を目的として所有する土地建物である。近年、その価格は金利水準の低下を背景に高騰し、取引利回り(年間賃料等収益÷売買価格)は著しく低下した状態にある。満室稼働の収益物件は特に市場で高く評価され人気である。

一方、国税庁の財産評価基本通達では、いわゆる収益物件の土地は「貸家建付地」、建物は「貸家」に該当し、それぞれ自用の土地、自用の建物に比べ、賃料水準にかかわらず、低く評価される仕組みになっている。

但し、空室がある場合には「その各独立部分の賃貸の状況」に基づいて「賃貸割合」(床面積割合)を求め、当該割合についてのみ、評価を下げる、すなわち実際に賃貸されている(テナント募集中部分は原則含まない)部分についてのみ、評価を下げる仕組みである。

そうすると、市場の評価では、全てテナントで埋まっている(満室稼働)物件の方が高くなるにも拘わらず、国税庁の評価に依れば、空室の多い物件の方が高くなるという矛盾が生ずる。

市場の評価(@)と国税庁の評価(A)とでは、一体どちらが正しいのであろう。

ポイントは次の3点である。

ア.賃料水準の適否(近隣相場と比べてどうか)
イ.定期か普通か(賃料水準の是正が容易か)
ウ.物件の種類(一戸建住宅か、1Rマンション、事務所ビル他か)

@の考え方の場合でも、賃料水準が近隣相場より低ければ、たとえ満室でも空室あり物件より評価は下がる。今後、空室部分は相場の賃料で賃貸可能だからである。低い賃料を相場の賃料まで引き上げるのは容易ではないことに留意が必要だ(残存期間の短い定期借家なら問題ない)。

Aの考え方は、賃料が相場より低い状態を前提にしていると考えられる。確かに、戦後からバブル崩壊までは、定期借家制度がなかった上に、地価も(新規)賃料も上昇を続け、(継続)賃料の水準は、新規賃料よりも低いのが普通であった。それを前提とすれば頷ける。

このように、アとイを勘案すれば、@もAも前提条件によっては妥当ということができる。

さて、ウに関してであるが、一戸建住宅の場合、たとえ相場の賃料で賃貸されている物件であっても、そもそも自用が前提の物件であるから、賃貸されている物件はされていない物件に比べて大きく評価が下がると考えられる。空室をよしとするAはこれに合致しており妥当である。満室をよしとする@は元々このような物件を対象としていないということができる。

なお、満室ビルでも、フリーレントや敷金なしでテナント誘致を図った場合もあるから要注意だ。

さらに、売主がサクラのテナント(高額の賃料で賃借しているふりをしている)で満室を装うという悪質なケースもある。売買後、テナントは2〜3ヶ月で解約・退去してゆく。買主が承継した敷金返還債務が高額であれば、泣きっ面に蜂である。


BRIEFING目次へ戻る