BRIEFING.518(2020.02.03)

敷引き・償却の利益計上時期と土地建物の売買

建物賃貸借契約にあたって、賃借人から賃貸人に授受される一時金には、解約・明渡し時に返還されるものと返還されないものとがある。前者は預かり金として賃貸人が管理運用するもので、敷金、保証金などと呼ばれる。後者はその期の賃貸人の利益とされるもので、礼金、権利金などと呼ばれる。

この他、その両方の性格をもつものもあってややこしい。例えば次のようなものである。

@敷引き・償却のある敷金・保証金等
 敷金・保証金の内、一定額は返しませんよといった特約のある敷金・保証金である。

A「解約時に」敷引き・償却のある敷金・保証金等
 上記@は、敷引き・償却の利益計上時期を特に定めていないものであるが、「解約時に」と定められたものがこれである。解約引きとも言われる。

B入居期間によって敷引き・償却額が変動する敷金・保証金等
 5年以内の解約なら40%、10年以内なら20%、それ以上なら敷引き・償却なしといったもの。長期賃借人を大事にし、早期解約を防ぐ効果がある(逓減型)。逆に長く居るほど自然損耗が生ずるので敷引き・償却を増やす約定もある(逓増型)。

問題は、賃貸人がこれらをいつ利益とするのか、そして、この土地建物(貸家及びその敷地)を売買する際に売主が買主に引渡す敷金・保証金に敷引き・償却分を含むか否かという点である。

国税庁は「一定の事由の発生により返還しないこととなる部分の金額は、その返還しないこととなった日の属する事業年度の益金」とすることを求めている。

これに従い、まず@について見てみると、契約した時点で利益とすることになる。売買時に引渡す敷金・保証金も、それに倣ってその時点で残っている(まだ預かり金とされている)部分のみということでよかろう。

ではAの場合はどうか。この点、国税庁は「解約時に」とされていても、いつかは必ず解約するのだから、@と同様と考えている。だが、売買の際、買主がそれで納得するだろうか。売買契約時に確認しておく必要がある。単に「売買代金とは別に敷金・保証金を引渡す」という約定のみではトラブルになる。

Bの場合、逓減型なら利益計上不要(4年以内解約を除く)、逓増型なら期間の経過毎に利益計上ということになる。国税庁も文句ないし、売買時のトラブルもないだろう。

これに加え、Aで「解約時賃料の2ヶ月分」といった約定の場合が面倒だ。定期借家で賃料増減請求不可の場合は別として、建物の賃料は、将来、増減の可能性がある。そうすると、契約時に解約時の賃料は分からないから、いくら利益計上してよいか分からない。賃料はインフレやデフレで将来大きく増減することも考えられる。

さらに、敷引き・償却の授受が(住宅の貸付けの場合を除き)消費税課税取引であるところ、税率の変更も考えられ、契約時に8%の税を加えた敷引き・償却額を敷金・保証金から控除して預かり金としていたのに、解約時の税率が10%であったなら、賃借人にいくら返還すべきであるか悩ましいところである。


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