BRIEFING.52(2003.3.27)

敷金返還債務の控除とその現在価値

賃貸中の建物を、その敷地と共に取得した場合、買主は賃貸人たる地位を承継し、賃借人に対する敷金返還債務をも負担する。したがって、当該不動産の価格は、別途敷金の清算が行われない限り、不動産そのものの価格から、当該債務を控除したものとなる。

ところで、そのような不動産を取得した人が、実際にその敷金を返還するのは、賃借人が解約して建物を明渡した時である。また、すぐに次の賃借人が決まり同額の敷金を受領できれば(一時的な資金調達は必要だが)、最終的な返還は、建物を取壊す時や自ら使用する時まで訪れないということになる。

とすれば、控除すべき敷金返還債務は、その現在価値のみでよいとも思える。

だが、収益還元法の直接還元法において収益価格を求めた場合、通常、敷金返還債務の額面を控除する。それは一方で敷金の運用益を純収益に計上していることと関係がある。

収益還元法のDCF法においては、運用益を考慮しない一方、返還債務を割引いて現在価値で把握している(次表参照)。

  運用益の計上 返還債務の割引
直接還元法     ○      ×
DCF法     ×      ○

これらの背後には、運用利回り=割引率という暗黙の前提があるものと考えられる。これを前提とすれば、n年間の毎年の運用益の現在価値の総和と、n年後の返還債務の現在価値と額面との差とが、等しくなることが次式から解る。

敷金×運用利回り×複利年金現価率=敷金−敷金×複利現価率

控除する返還債務を割引くか否かは、運用益の計上の有無に対応させる必要があるのである。


BRIEFING目次へ戻る