BRIEFING.525(2020.05.15)

むつ市の「居住誘導区域」と「居住調整地域」

2020年4月1日までに全国326の市町村が、都市再生特別措置法に基づく「立地適正化計画」を作成・公表している。「立地適正化計画」には「居住誘導区域」と「都市機能誘導区域」を記載するものとされている。前者は都市の居住者の居住を誘導すべき区域、後者は都市機能増進施設の立地を誘導すべき区域である。

この他、同法では「居住調整地域」を定めることもできる。居住誘導区域外の区域で、住宅地化を抑制すべき区域である。これは市街化区域内にのみ定められるが、本来、市街化区域は「すでに市街地を形成している区域及び概ね十年以内に優先的かつ計画的に市街化を図るべき区域」であるところ、その中に住宅地化を抑制すべき区域を定めるのは、一見矛盾があるように思える。だが「居住調整地域」が抑制すべきは「住宅地化」のみである点に気づけば納得できる。

しかし、市街化区域なのに「居住調整地域」とされれば、地価の下落が予想され、その地域の土地所有者にとっては面白くない。人口減少に悩む市町村としても指定したくないだろう。事実、最初のうちは「立地適正化計画」においてこれを定めた市町村が全くなかったのである。

初めて「居住調整地域」を定めたのは、青森県むつ市である。2017年2月に「立地適正化計画」を公表し、2018年4月に「居住調整地域」を定めている。以降もこれを定めた市町村はないと思われるから、今のところこれが日本で唯一の「居住調整地域」だろう。

市は、都市経営コストの増大の抑止、森林地域の保全、治山治水における安全安心なまちの形成、地域資産「アゲハ蝶の夜景」(釜臥山からの夜景)の保全を目的に掲げ「適正な住宅の配置を進めることで、コンパクトな都市づくりを進め、良好で魅力ある都市環境の構築を図る」としている。勇気ある判断と評価すべきだろう。

ところで「居住誘導区域」がある一方で「居住調整地域」ではおかしくないか。なぜ「区域」と「地域」なのだろうか。「市街化区域」「市街化調整区域」のように統一すべきではないか。これについて、明確な説明は見当たらないが、両者には次のような相違がある。

「居住誘導区域」は都市再生特別措置法の「立地適正化計画」の中に「記載する」もの(同法81条2項)、「居住調整地域」は同法に基づいて都市計画に「定めることができる」もの(同法89条)なのである。同法の第六章を見てみると、第一節は「立地適正化計画の作成等」(81条〜)であり「居住誘導区域」と「都市機能誘導区域」の定義が出てくる(「居住調整地域」は出てこない)。第二節は「居住誘導区域に係る特別の措置」(86条〜)、第三節は「都市機能誘導区域」(95条〜)だ。「居住調整地域」は第二節の中の第三款「居住調整地域等」(89条〜)という1ランク下の扱いだ。

一方、都市計画法8条(地域地区)1項4号の2に「都市再生特別措置法・・(中略)・・第八十九条の規定による居住調整地域又は・・(後略)」がある。同条同項は、用途地域、高度地区、防火地域他、都市計画に定めることのできる地域地区を列挙したお馴染みの条項だ。「居住調整地域」はそのメニューの1つに納まっており、都市計画図にも表示される。

むつ市の都市計画図には「居住調整地域」が記載されており、「居住誘導区域」は記載されていない。逆に「立地的適正化計画」の誘導区域図には「居住調整地域」は記載されておらず「居住誘導区域」が記載されているのである。


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