BRIEFING.527(2020.06.04)

利回りの上昇と将来動向(1)

不動産の利回りは、その期の収益とその価格とを関連付けるものである。そしてこれら3つの内、2つが判明しまたは仮定されれば、残る1つは次の通り求められる。

@収益6,000万円/年 ÷ 利回り6% = 価格10億円
A価格10億円    × 利回り6% = 収益6,000万円/年
B収益6,000万円/年 ÷ 価格10億円 = 利回り6%

なお、収益には、総収益、運営収益、償却前純収益、償却後純収益等があるが、ここでは煩雑さを避けるため総収益とし、利回りも総収益に対応した利回り(取引利回り、表面利回り、粗利回り)とする。

不動産鑑定評価基準では、@の利回りを「還元利回り」、Aの利回りを「期待利回り」と呼んでいる。それぞれ価格(収益価格)、賃料(積算賃料)を求める手法に使用される。なおBの利回りに特段名称は付されていない。あえて付せば「運用利回り」だろうか。

不動産鑑定評価基準の解説書「要説・不動産鑑定評価基準と価格等調査ガイドライン」は、「還元利回り」と「期待利回り」の相違を次のように説明している。

●還元利回り・・「不動産が物理的、機能的及び経済的に消滅するまでの全期間にわたって不動産を使用し、又は収益することができることを基礎として生ずる経済価値に対するもの」
●期待利回り・・「上記期間のうち一部の期間について不動産の賃貸借等の契約に基づき不動産を使用し、又は収益することができることを基礎として生ずる経済価値に対応するもの」

そうすると「還元利回り」は、収益と金利の将来動向・趨勢・見通し等が織り込まれているものと理解できる。一方「期待利回り」は、将来の変動を織り込んでおらず、今の価格と今の賃料を単純に関連付けるものと理解できる。

両者は同じではないのである。

だが、両者が異なる値をとるとすれば、冒頭の@式とA式が同時に成り立つことはあり得ない。これは一体どういうことだろうか。

「還元利回り」について、その上昇要因を考えてみると、建物の老朽化・陳腐化、地域の衰退、景気の後退等が考えられる。金利の上昇予測もその一因だ。たとえばこれらを2%として利回りに織り込むと、@式は次のようになる。

@収益6,000万円/年 ÷ 還元利回り(6%+2%)  = 価格7億5,000万円

「期待利回り」についても考えてみる。もし上記と同様の状況なら、今はまだ比較的高い利回りが得られる時期であろうから、それを2%と見込むとすると、A式は次のようになる。

A価格7億5,000万円 × 期待利回り(6%+2%) = 収益6,000万円/年

価格には将来の悪化をすでに織り込んでいるので、今の収益を求めるための期待利回りには、上記のような配慮が必要となる。


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