BRIEFING.528(2020.06.11)

利回りの上昇と将来動向(2)

前回、悪化する将来動向を織り込んだ利回りで、次のように価格・収益を求めた。

@収益6,000万円/年  ÷ 還元利回り(6%+2%)  = 価格7億5,000万円
A価格7億5,000万円 × 期待利回り(6%+2%) = 収益6,000万円/年

「還元利回り」は上乗せすることで(悪化を織り込んだ今の)価格がマイナスとなり、「期待利回り」は上乗せすることで(今だけの)収益がプラスとなる。その結果、両式の収益・価格は一致することになる。もちろん、上記は一致するように数値を設定したのであるが、その方向性に誤りはない。

ところで、収益物件の広告に表示される運用利回りは、前回の冒頭B式の利回りである。もしこれについても、上記のような将来動向であるとすると、B式は次のように改められる。

B収益6,000万円/年 ÷ 価格7億5,000万 = 運用利回り(6%+2%)

@ABの式が同時に成り立つとすれば、上式の通りになる。だが将来の動向に不安を抱える状況において運用利回りが上がってよいのだろうか。

何となく違和感もあるが、不安な状況を踏まえて価格が下がった結果、今の利回りが上がったと言えば首肯できよう。価格の下落、すなわち利回りの上昇なのである。「この物件、もう少し利回りが高ければ買うのだが・・」というのは、言い換えれば「もう少し安ければ買うのだが・・」ということなのである。不動産投信の市場価格の下落で分配金利回りが上昇することに鑑みれば当然である。

利回りの上昇は、@においてはもちろん、ABにおいても良くない兆候である。ABにおいては、これからの見通しが明るい時に上がる(上げる)ようにも思えるがそうではない。悪いから上がる(上げる)のである。

収益不動産の広告を見る際、高利回り物件は、今後のリスクの高い物件、誰も手を出さない物件(だから価格が下がり利回りが上がる)と認識しなければならない(収益が楽観的想定である場合はさらに危険)。

では、収益物件は、利回りの高いものより低いものを選択すべきなのだろうか。

利回りの高い物件はリスクが高いことはすでに述べた。しかし売買価格に対して、少なくとも今の収益が多い(利回りが高い)のは間違いないから、入手後、運用に改善を加えて予想されている将来の悪化を食い止められると読めば取得すべきである。あるいは、自らにその力はなくても、地域の活性化や景気の回復が案外早く進むことに懸けてみてもよい。読みが当たればお得な良い買物となる。

逆に、一般の予想以上に悪化すると読めば、購入は見合さねばならない。とにかく今の収益性(高い利回り)にだけ目を奪われてはならない。

利回りの低い物件も、並みの物件も、見るべきポイントは同じである。その物件の個別的要因、存する地域の地域要因、社会全体の一般的要因等の将来動向を見極め、自力か他力かを問わず、皆の予想を超える改善が見込める場合は買い、そうでなければ止めるべきなのである。優れた不動産投資家は、自らの運用改善力(自力)と、先見の明(他力)を有するのである。


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