BRIEFING.529(2020.06.18)

改正民法施行後の借家契約の更新

改正民法が施行され3ヶ月近くが経過した。新たな借家契約にこれが適用されることは言うまでもない。また施行前からの借家契約にすぐこれが適用されることがないことも同様である。では、施行後に更新された施行前の借家契約に、改正民法の規定が適用されるであろうか。

これについては、かねてから議論があったが、次のように解される。

@合意更新の場合・・適用される。
A法定更新の場合・・適用されない。

@は賃貸人・賃借人が合意によって契約期間を更新するものである。その際、賃料その他の契約条件を改定する場合もある。

Aは賃貸人が、期間満了前の一定期間内に更新しない(又は一定の条件を飲まないと更新しない)旨の通知しなかった時、借地借家法(第26条第1項)に基づき「従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなす」ことにより更新されるものである。但し「その期間は、定めがないもの」となる。

なお、この「しない旨の通知」は「正当事由」がなければすることができない(同法第28条)。

@は文字通り「更新」で、契約が新しくなるから、改正後の民法が当然適用される。しかしAの場合は法律で「従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなす」と定められており、この「従前の契約と同一の条件」が改正民法に優先すると考えられる。

では、B自動更新の場合はどうだろうか。

Bは賃貸人・賃借人が、あらかじめ契約で「期間満了6ヶ月前までに契約更新について双方から異議なきときは〇年間更新する」旨を定めている場合に、それに従い更新されるものである。これは、新たな合意がないから「合意更新」とは言いにくいが「合意更新」の一種だ。従前契約時の「あらかじめの合意」による更新だからである。

したがってBの場合も改正民法が適用される。

Aが「借地借家法の定めに基づいて自動的に更新される・・」と説明されることが多いため、B=Aと勘違いしておられる方も多いが間違いだ。Bは@の一種である。

ところで、今般の民法改正の建物賃貸借に係る条項には、借家人の保護に資するものが多い。それが、借家人を保護した結果のAでは適用されないというのは、何かちぐはぐに感じられる。借家人に不利な改定を防ぐための「従前の契約と同一の条件」の規定が、逆に作用した結果だろう。

また、合意更新したのか法定更新になったかが判然としない場合もある。たとえば、更新に際し賃料の値上を要請しつつ合意できぬうちに期間が満了してしまった、恒常的な少額滞納の是正をしないと更新しないとしつつ是正されないまま期間が満了してしまった場合等である。@Aが判然としないままでは、改正民法適用か否かも判然とせず、争いが複雑化するおそれがある。

さらに、正当事由が認められにくい現状の中で、法定更新された契約がいつまでも旧民法に依拠してゆくのもいかがなものだろうか。


BRIEFING目次へ戻る