BRIEFING.530(2020.06.25)

配偶者居住権付き土地建物の評価と重要事項

民法改正によって創設された配偶者居住権は、建物の所有権を制限する賃借権類似の権利である。自宅所有者である配偶者(主に夫)の死後、その配偶者(主に妻)が、配偶者居住権という所有権に比べて安価な権利を相続することにより、従来からの住まいを確保した上で生活資金も相続し易くすることを趣旨とする制度である。

第三者に対抗するため、登記もできる。

その残された配偶者は終身(または一定の期間)無償で自宅に住み続けられ、その権利の放棄はできても売却はできない。一方、その権利の付着した土地建物の売却は可能だが、法の趣旨に照らせばその流通は想定されていないようだ。だが禁じられている訳ではなく、必要性(所有権を相続した子供が納税資金捻出のために売却等)も認められる。

この権利、及びそれが付着した土地建物の税務上の評価方法は、相続税法(法23条の2、令5条の8)に規定されているがここでは述べない。では、この権利の付着した土地建物が市場で流通する場合、どのような評価を受けるであろうか。

配偶者居住権付き土地建物の所有者は、「配偶者」が存命の間、それを使用することができない。賃料も取れない上、土地の固定資産税も負担しなければならない。価値は0に等しい。しかし「配偶者」が亡くなれば即、何の負担もない所有権を得られるから、安く取得し案外早くその時が来れば儲けものと言うことになる。

買主が「配偶者」の早期逝去を密かに期待することを責められまい。もちろん、それに向けて何かを企ててはならないが。

さて「配偶者」の年齢は前述の相続税評価に勘案されるが、健康状態を考慮する規定はない。しかしそれがその土地建物の価値を大きく左右すると考えるのは(経済的に)合理的であり、買主にとっては大いに気になるところである。

ところで宅建業者は宅建業法35条により重要事項として「登記された権利の種類及び内容並びに登記名義人」について説明しなければならない。またこれに加え、同法47条1項では「相手方等の判断に重要な影響を及ぼすこととなるもの」について「故意に事実を告げず、又は不実のことを告げる行為」(いわゆる「事実の不告知」)を禁じている。

では宅建業者はその業務に際し、買主に「配偶者」の年齢や健康状態を告知する義務があるだろうか。また、あるとすれば知っている時のみでよいのか、積極的に調査すべきなのか・・・。

たとえば「不治の病で入退院を繰り返している」とか「毎日自転車で買物に行く」といった事実について、近所の人も周知している場合はどうか、していない場合はどうか・・・。

事実の不告知はしばしば守秘義務との兼ね合いで問題となる。この点、宅建業の実務上は、宅建業法45条の「正当な理由がある場合でなければ・・・漏らしてはならない」の「正当な理由」を広く解釈し、守秘義務を緩く運用する傾向にあると思われる。買主の保護も重要だからである。

しかし「配偶者」の年齢はともかく、健康状態についてはどうだろう。それが配偶者居住権付き土地建物の価値に大きな影響を及ぼすことは間違いないのだが・・・。


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