BRIEFING.531(2020.07.02)

マンションの相続税評価と修繕積立金

分譲マンションの区分所有者は「全員で、建物並びにその敷地及び付属施設の管理を行うための団体を構成」(建物の区分所有等に関する法律第3条)する。その団体が通常「管理組合」である。そして各区分所有者は「敷地及び共用部分等の管理に要する経費に充てるため」(マンション標準管理規約第25条)管理費と修繕積立金を管理組合に納入しなければならない。

管理費は「通常の管理に要する経費」(同規約第27条)に、修繕積立金は「特別の管理に要する経費」(同規約第28条)に充当される。具体的内容については皆様周知のことと拝察し、ここでは省略する。

さて、管理費は年間で見ると概ね収支が均衡している場合が多い(そうあるべきである)。一方、修繕積立金は、何年かに1度しか支出されないため、毎年積み上がっているのが普通だ(同上)。その残高が適正かどうかは、建物等の劣化の具合とも関連し、概して言うなら下表の通りである。

  残高潤沢 残高窮乏
良好で改修不要  ◎  ○
劣化し改修必要  ○  ×

近年は、管理組合としても修繕積立金残高や大規模修繕履歴等の開示に前向きな所が多い。そしてその残高と建物等の劣化具合とを比較考量し、売買価格査定の参考とすることができる。

では、国税庁の財産評価基本通達ではこの残高をどう扱っているのだろうか。被相続人が所有していたマンションの相続税評価に影響を及ぼすのだろうか。

だが同通達には修繕積立金残高を評価する規定は見当たらない。そうするとマンション一戸の評価は、マンション全体の土地建物の評価額に当該住戸の持分割合をかける(同通達3)のみで完了し、修繕積立金残高は全く考慮されないことになる。同通達による評価は、土地については相続税路線価(地価公示水準の80%)、建物については固定資産税評価に基づくため、元々市場における評価より安いが、修繕積立金残高も考慮しないとなると、さらに安い評価ということになる。

修繕積立金残高があくまでも管理組合の財産であるとすれば考慮しないのも当然と言えるが、その住戸の価値と一体のものと考えれば、その住戸の価値に反映させるべきかも知れない。

一方で同通達は、建物等の劣化具合も考慮しない。

この点、正常に修繕積立金が徴収・管理されているマンションであるなら、その残高と劣化具合とがバランスしているはずと判断し、両方をあえて考慮しない(すべきでない)と考えることもできる。上表の右上または左下(ともに○)の状況であるとみなす訳だ。大雑把な推定ではあるが・・・。

どちらかだけよりは、どちらも考慮しないという方が、整合性があると言うべきだろう。

だが、上表右下(×)のマンションも多く現存する。単に当該住戸分の積立不足額のみ評価減すればよいという問題ではなく、それを負担できない区分所有者もいるおそれもある。それでは大規模改修ができず、大変なことになる。土地建物の評価額にそれを加味、または別途勘案すべきであろう。

上表左上(◎)のマンションは珍しい。余裕があるのはよいが、適正と言ってよいかどうかは疑問だ。極端に潤沢だと節税目的も疑われる。但し残高が組合員に現金で返還されるのは、規約に特段の規定がない限り管理組合が解散した場合(同法55〜56条)に限られる。


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