BRIEFING.534(2020.08.17)

スライド法における変動率の指標と消費税

継続賃料を求める鑑定評価の手法の1つにスライド法がある。この手法は、直近合意時点における純賃料に変動率を乗じて得た額に価格時点における必要諸経費等を加算して試算賃料を求める手法である。

この変動率の査定に当たってはこれといった計算式がある訳ではなく、不動産鑑定評価基準は「土地及び建物価格の変動、物価変動、所得水準の変動等を示す各種指数や整備された不動産インデックス等を総合的に勘案して求める」としか述べていない。

実務上参照される指標は、地価公示・地価調査価格、相続税路線価、建築工事費デフレーター、GDP(国内総生産)、消費者物価指数、企業向けサービス価格指数、賃金指数等である。

さて、GDPについては、物価の変動を考慮した「実質」でなく「名目」を見ることが重要である点を指摘しておかねばならない。求めるべき賃料は「名目」だからである。なお、不動産鑑定評価基準で言う「実質賃料」の「実質」はここで言う「実質」とは全く関係のない概念である。

消費者物価指数については、消費税の影響が含まれていることに留意が必要である。求めるべき賃料は税抜きであろうから、消費者物価指数についてもこれを除いた数値に着目しなければならない。総務省統計局のHPの「消費税の取り扱いについて」には「・・・財やサービスと一体となって徴収される消費税分を含めた消費者が実際に支払う価格を用いて作成されています。」とある。一般に公開されている消費者物価指数はこれである。

その含め方は、かなり細かく、食料品等の軽減税率はもちろん、電気代等の経過措置(2019年10月は旧税率、11月から新税率)、航空運賃指数算出の際の「2019年9月までに購入される最安割引運賃部分について」の旧税率適用も織り込まれている。ハンバーガーのテイクアウト率まで勘案しているから頭が下がる。では税抜き指数は公表されているのだろうか。

同局HPの「消費者物価指数における「消費税調整済指数」の作成について」には、「参考値」としてそれが公表されている。しかし公表されているのは全国の「総合」の他「生鮮食品を除く総合」「持家の帰属家賃を除く総合」「持家の帰属家賃及び生鮮食品を除く総合」「生鮮食品及びエネルギーを除く総合」「食料(酒類を除く)及びエネルギーを除く総合」の6系列の指数のみである。業界関係者がよく利用する「住居」「家賃」といった類・品目については残念ながら公表されていない。

では企業向けサービス価格指数はどうだろう。

日本銀行のHPには、通常の指数の他「消費税を除く企業向けサービス価格指数」が公表されている。それは通常の(消費税を含む)系列の全てに渡ってである。下表は「不動産賃貸」についての月次(昨年8月〜11月)の指数である。2015年基準なので2015年の指数が100である。

  消費税を含む 消費税を除く  差
2019年08月  104.3  104.3  0.0
2019年09月  104.1  104.1  0.0
2019年10月  105.9  104.0  1.9
2019年11月  106.7  104.7  2.0

税率引上げ(10/1〜)までは両者同数値であるが、消費税を含む指数は10月に大きく上昇していることが分かる。各種指数が消費税をどう取り扱っているか、留意が必要である。


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