BRIEFING.535(2020.08.24)

総費用の減価償却費と必要諸経費等の減価償却費(1)

不動産鑑定評価における、価格を求める手法の1つに収益還元法があり、その試算過程には「総費用」が登場する。また賃料を求める手法の1つに積算法があり、その試算過程には「必要諸経費等」が登場する。そしてその両者の内訳として「減価償却費」という共通の用語が登場する。

「減価償却費」は、収益還元法の「総費用」の構成項目の1つとして計上され、積算法の「必要諸経費等」の構成項目の1つとしても計上されるのである。ところが近年、これを、どちらの手法においても計上しないのが一般的になりつつある。つまり次の如くである。

●収益還元法・・総収益から減価償却費を含まない総費用を控除して得た純収益を、償却を考慮した還元利回りで還元して収益価格を求める。

●積算法・・・・基礎価格に償却を考慮した期待利回りを乗じて得た純収益に、減価償却費を含まない必要諸経費等を加算して積算賃料を求める。

従来、引き算(純収益から控除)・足し算(純収益に加算)していた減価償却費を、割り算(還元利回りで割る)・かけ算(期待利回りをかける)で考慮しようというものである。

これにより、収益還元法の場合、純収益は増加するが、その分上乗せした還元利回りを使うため、求められる価格は従前並となる。積算法の場合、加算する必要諸経費等は減少するが、その分上乗せした期待利回りを使うため純収益が増加し、求められる賃料は従前並となる。

減価償却費を利回りに織り込むのはどんぶり勘定と言えなくもないが、従来の減価償却費の査定でも大差ない上、減価償却費を含まない利回りをベースとして利回りの“相場”が市場で形成されるようになってきたため、鑑定評価実務においてもこれに倣ったものと思われる。

さらに、減価償却費以外の総費用及び必要諸経費等までも利回りに織り込んでしまうと、どんぶり勘定過ぎるかも知れないが、価格又は賃料の算出根拠が利回りに凝縮され、利回り以外に恣意性の介入余地がないという長所もある。いわゆる表面利回り、取引利回り、粗利と呼ばれるもので、収益物件の売買市場で重宝されている考え方だ。総費用又は必要諸経費等の実際の額が不明な場合や、判明していても今後大きな増減が予測され、これまでの額が当てにならない場合には有用である。

なお、収益物件の広告に表示される取引利回りには、恣意的な想定賃料が含まれている場合があるので、その場合には要注意だ。

さて、減価償却費を利回りに織り込むか否かに対する考え方は、次の2つに分けられる。

@総費用・必要諸経費等に計上すべき(計上主義)
A還元・期待利回りに織り込むべき(織込み主義)

@は「引き算・足し算主義」Aは「割り算・かけ算主義」と言ってもよいだろう。

ところで、Aの織込み主義は、収益還元法では早くから容認(近年は推奨)されてきたにも拘わらず、積算法においては、今でも実務上、抵抗があるように感じられる。

その理由について、次回検討する。


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