BRIEFING.539(2020.09.24)

不動産の利回りの分類(1)

不動産の利回りRは、その価格Pと、そこから得られる賃料や収益Aとを関連付ける数値である。その関係は次の通り表される。

R=A/P

ところがRにはいくつもの種類があり、異なる概念のRが同じ名称や似た名称で使われていたりするため、誤解や混乱も見られる。そこで今回は、分類の方法に着目してRを整理する。

T.割るか掛けるか(AからPか、PからAか)の相違

不動産鑑定評価基準では「直接還元法の収益価格及びDCF法の復帰価格の算定において、一期間の純収益から対象不動産の価格を直接求める際に使用される率」を還元利回り(@)とし、「賃貸借等に供する不動産を取得するために要した資本に相当する額に対して期待される純収益のその資本相当額に対する割合」を期待利回り(A)としている。すなわち、割り算(A/R)で価格を求める場合は還元利回り、掛け算(P×R)で収益を求める場合には期待利回りである。

U.期待(希望)か実際(推定)かの相違

投資家は、Pに対して期待するA、Aに対して出してもよいP、それぞれのその割合を期待利回り(@)と表現する。売主提示価格10億円に対し「あの物件なら期待利回り5%はほしいから5千万円/年は収益がないとなあ」、あるいは想定収益5千万円/年に対し「期待利回り5%として10億円までなら出せる」といった具合に使われる。これに対し、実際(又はその推定)の利回りは実質利回り(A)や取引利回り(B)と言われる。これらは、割り算(A/R)にも掛け算(P×R)にも使われ、Tとは異なる視点からの区分である。それにも拘わらずTのAとUの@がともに『期待利回り』と呼ばれ、ややこしい。

V.どのようなAに対応するかの相違

P×Rによって求められるAには、様々な経費も含んだ収益(総収益)か、経費を控除した収益(純収益)か、さらには、減価償却費をも含む経費を控除した収益(償却後純収益)か、といった区別がある。総収益に対応する利回りは、取引利回り(@)、粗利回り(A)、表面利回り(B)、グロス利回り(C)と呼ばれる。純収益に対応する利回りは、純利回り(D)、純収益利回り(E)、実質利回り(F)、ネット利回り(G)、NOI利回り(H)と呼ばれる。償却後純収益に対応する利回りは、償却後純収益利回り(I)、投下資本収益率(J)と呼ばれる。さて、ますますややこしくなってきた。UのAとVのFがともに『実質利回り』、UのBとVの@がともに『取引利回り』なのである。

W.一時金の運用益等もAに加算するか否かの相違

不動産の賃貸借契約に際して、敷金・保証金等の預かり金的性格の一時金、礼金・権利金等の賃料の前払い的性格の一時金が、借主から貸主に支払われる場合が多い。前者の運用益、並びに後者の運用益及び償却額は、Aを構成するものである。今の低金利に加え、これらの一時金の額が低廉化していることを勘案すれば、Aに及ぼす影響は僅かであるが、これらを加えたAに対応するものか否かでもRを区分することができる。加えたAに対応するRは実質賃料利回り(@)、加えないAに対応するRは支払賃料利回り(A)である。Wの@は、UのAとVのF(『実質利回り』)と似ていて混同しやすい。

次回はこれらを表にまとめて整理する。


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