BRIEFING.540(2020.10.01)

不動産の利回りの分類(2)

不動産の利回りRには様々な種類のものがあるが、異なる概念のRが同じ名称や似た名称で使われており、誤解や混乱が生じがちである。そこで前回、これらのRを分類の方法に着目して整理した。今回はそれらをさらに分かり易く表にまとめてみた。
 

T.割るか掛けるか(AからPか、PからAか)の相違

A÷R→Pを求める @還元利回り
P×R→Aを求める A期待利回り
 

U.期待(予測)か実際かの相違

期待(希望)のA、P @期待利回り
実際(推定)のA、P A実質利回り、B取引利回り
 

V.どのようなAに対応するかの相違


 
経費を含むA
 
@取引利回り、A粗利回り、B表面利回り、
Cグロス利回り

 
経費を控除したA
 
D純利回り、E純収益利回り、F実質利回り、
Gネット利回り、HNOI利回り
減価償却費をも控除したA I償却後純収益利回り、J投下資本収益率
 

W.一時金の運用益等もAに加算するか否かの相違

一時金の運用益等を含むA @実質賃料利回り
一時金の運用益等を除くA A支払賃料利回り
 

同じ名称でありながら、その意味が異なる組み合わせは次の通り。

『期待利回り』・・・TのAとUの@
『実質利回り』・・・UのAとVのF(Wの@も類似)
『取引利回り』・・・UのBとVの@

例えば、(一財)日本不動産研究所が定期的に行っている「不動産投資家調査」における「期待利回り」は「投資家の判断(計算)に使われる還元利回りを指す。」と定義されており、この「期待利回り」がTの区分ではア、であることが分かる。さらに「通常、純収益(NOI)を期待利回りで割ったものが投資価値になる。」と説明があり、Vの区分ではイとなることを示している。

さらに「取引利回り」について「市場での還元利回り。純収益(NOI)を市場価値で割ったものを指す。」と説明があり、これがTの区分のア、Vの区分でイであることが分かる。補足説明として「期待利回り」は「各投資家が期待する採算性に基づく利回り」、「取引利回り」は「投資家が実際の市場を観察して想定する利回り」としており、それぞれUの区分ではア、イであることが分かる。

つまりこの調査における「期待利回り」はTのア、Uのア、Vのイ、「取引利回り」はTのア、Uのイ、Vのイ、の意味で使用されているのである。なお、ともにWの区分はイであることが別途説明されている。

不動産の利回りについて、様々な分類・説明がなされているが、その分類が上記TUVWのいずれの区分によるものなのか、その名称の如何にとらわれずに判断する必要がある。


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