BRIEFING.541(2020.10.08)

「賃貸等不動産として使用される部分」の構造上・利用上の独立性

「賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準」によると、賃貸等不動産とは「棚卸資産に分類されている不動産以外のものであって、賃貸収益又はキャピタル・ゲインの獲得を目的として保有されている不動産(ファイナンス・リース取引の貸手における不動産を除く。)」をいう。したがって自ら物品の製造・販売、サービスの提供、経営管理に使用している場合はこれには含まれない。具体的には、(1)貸借対照表において投資不動産に区分されている不動産、(2)将来の使用が見込まれていない遊休不動産、(3)上記以外で賃貸されている不動産などであり、その時価等は、財務諸表の注記事項として開示されなければならない。

上記基準では、開示すべき時価を「公正な評価額」とし「通常、それは観察可能な市場価格に基づく価額をいい、市場価格が観察できない場合には合理的に算定された価額」と定めており、さらに上記基準の適用指針は「合理的に算定された価額」を「『不動産鑑定評価基準』による方法又は類似の方法に基づいて算定する」(適用指針11)と規定している。その上で「注記を行うにあたって時価に対応するものは正常価格」(適用指針29)であると説明している。

ところで、不動産の中には、賃貸等不動産でない部分とそれに該当する部分とで構成されているものがある。その場合、「賃貸等不動産として使用されている部分」については、賃貸等不動産に含めるのが原則である。

では「賃貸等不動産として使用されている部分」が、構造上・利用上の独立性を有せず、区分建物としての登記が不可能な状態の場合、その「時価」とは何だろうか。区分登記ができなければ区分所有法の「専有部分」たり得ず、その登記ができないから売却もできず、市場性がなくその「時価」を0と見ることもできる。少なくとも「正常価格」と言える価格は求めにくいのではないだろうか。ちなみに「正常価格」とは「(前略)現実の社会経済情勢の下で合理的と考えられる条件を満たす市場で形成されるであろう市場価値を表示する適正な価格」である。

なお、賃料の鑑定評価では、対象不動産の区分登記が不可(売買も不可)であっても、評価の過程で当該部分の「基礎価格」を求めるが、これは観念的な価格に過ぎない。しかし、価格の鑑定評価なら、区分登記の実現性、合法性を確認の上、行うのが筋であろう。

賃貸等不動産の鑑定評価の実務上、区分登記の可否には言及せず「正常価格」を求めているのが一般的だろう。この場合、鑑定評価の条件として、区分登記可能(売買可能)と想定する旨、記載すべきではないだろうか。だが区分登記が不可能と判断される場合、対応は悩ましい。

事務所ビルの一部を賃貸している場合で、当該部分の構造上・利用上の独立性がなく、区分登記不可と考えられる場合としては次のようなものが挙げられる。

<構造上の独立性がない>
●他の部分と区分する部分の1面に、間仕切りも扉もシャッターもない。
●他の部分とは間仕切りと扉で囲われているが、上部又は下部が塞がれていない。

<利用上の独立性がない>
●他の事務所内を通らなければ、共用廊下・階段・トイレ・玄関へ行けない。
●他の事務所から独立して使用できる空調設備、照明設備がない。

ロビーの一部を、間仕切りもなく喫茶店に賃貸している場合など珍しくない。このような部分に「正常価格」はあり得るのだろうか。


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