BRIEFING.543(2020.11.05)

建物の老朽化とその敷地の減価

価格を求める鑑定評価の手法の1つ原価法の過程に、減価修正という作業がある。不動産鑑定評価基準ではその目的を「減価の要因に基づき発生した減価額を対象不動産の再調達原価から控除して(中略)積算価格を求めること」と述べている。減価の要因としては次の3つが挙げられている。

(1)物理的要因(老朽化、偶発的損傷等)
(2)機能的要因(建物と土地(敷地)との不均衡等)
(3)経済的要因(付近の環境との不適合等)

これについて同基準は「それぞれ独立しているものではなく、相互に関連し、影響を与え合いながら作用している」と述べている。したがってこれらを明確に区分することは難しい。

ところで、新築の建物及びその敷地にも減価が生じている場合がある。(1)については施工不良、(2)については設計・配置の不良、(3)については用途の不適合等である。ただ通常は、時の経過に従って生じてくるものである。(1)については言うまでもない(特に建物については)。(2)は建物に求められる機能の向上等によって生じ得る。(3)は周辺環境の変化によって生じる。

さて、建物に(1)の減価が進んできた場合、当然に土地にも減価が生じるだろうか。たとえば、一戸建住宅地域の中の老朽一戸建住宅の敷地、業務商業地域の中の老朽事務所ビルの敷地等である。

この点、老朽化が著しい場合、建物価値0、土地は建物取壊し費用相当額の減価、という判断をする場合がある。このような土地は最有効使用の状態になく、更地化して最有効使用(の可能性)を取り戻した方が得と考える訳である。また、建物価値 ≒ 建物取壊し費用 と判断し、土地建物合わせて更地価格、すなわち「土地値」と判断することも多い。面倒な計算や査定が不要なため、合理的ではないが所有者も売主・買主も納得しやすい。安易だが簡易でスッキリする。

いずれにせよ、このような土地の減価は、建物取壊しが妥当と判断された際に認識される。しかしそう判断した途端にその減価が生ずると考えるのではおかしい。突然ではなく、建物の老朽化とともに徐々に発生すると考える方が自然だろう。ではどのような状態になった頃から認識すべきだろうか。

実務上、建物の経過年数が、経済的耐用年数の過半を超過したぐらいでは認識しない。では経済的残存耐用年数が10年となったらどうか、5年を切ればどうか・・・。定説は見当たらない。

土地の最有効使用は、厳密には建物が新築の時に実現し、建物の経年劣化と共に(建物は当然のことだが)土地についても僅かずつ減価修正を認識(分類するなら(2)の減価)すべきではないだろうか。建物の減価による賃料の逓減(収益性の低下)の責任を土地にも負わすものである。

次の新築建物において、土地価格がBの1/40ずつ、建物価格はAの1/40ずつ、毎年均等に減価すると仮定して積算価格を試算してみると、この土地建物は36〜37年後に「土地値」となり、それ以降はそれを下回り、40年後には、@−B(7,200万円)となる。

@土地(更地)価格 (40万円/u×200u=8,000万円)
A建物(新築)価格 (20万円/u×400u=8,000万円)
B建物取壊し費用 ( 2万円/u×400u= 800万円)

法律上の義務ではないとは言え、将来の建物取壊しは必然である。資産除去債務の考え方も勘案すれば、その費用を、上記のように建物の使用開始時(新築時)から積算価格に考慮してもおかしくはない。


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