BRIEFING.545(2020.12.08)

持ち家の帰属家賃

国民経済計算によるGDP(国内総生産)は、原則として「新たに生み出された付加価値」で、かつ「市場で取引されているもの」を合計して計算される。したがって、市場で取引されない政府のサービス、環境から受ける利益、家事労働等はこれに含まれない。しかし、いくつかの例外があり、その代表的なものが次の2つである。

@農家における農産物の自家消費
A持ち家に係る住宅賃貸料である帰属家賃

自家消費を行った農家は市場で販売できる農作物の一部を自ら購入(@)し、自宅を所有する個人は他人に賃貸できる住宅を自ら賃借(A)している、と解釈し、その価格及び賃料を評価してGDPに算入するのである。農家が八百屋を兼営(@)し、サラリーマンが貸家業の副業(A)をしている想定だ。

具体的な対価の授受がないものの、何某かの価値に対する需要と供給があったことは間違いない。そして@はともかくとして、Aは多額で無視できない。それがGDPに占める割合は9.1%、民間最終消費支出に占める割合は16.4%(いずれも平成30暦年・名目)にも及ぶ。

内閣府の用語解説によると帰属計算とは「国民経済計算の特有な概念であり、財貨・サービスの提供ないし享受に際して、実際には市場でその対価の受払が行われなかったにもかかわらず、それがあたかも行われたかのようにみなして擬制的に取引計算を行うこと」である。そしてその例として上記@Aが挙げられている。

Aは「持ち家の帰属家賃」と呼ばれ、これと同じ名称・概念のものが、県民経済計算、産業連関表、全国消費実態調査(2019年〜全国家計構造調査)でも推計されているが、それぞれ手法が若干異なり、結果にも相当の誤差が生じており問題となっている。

では国民経済計算では「持ち家の帰属家賃」をどのように評価しているのだろうか。

内閣府の「国民経済計算推計手法解説書(年次推計編)平成23年基準版」によると「住宅賃貸料(持ち家の帰属家賃)は、都道府県、構造、建築時期といった属性を考慮した床面積、『住宅着工統計』(国土交通省)による持ち家比率、民営借家の家賃単価から推計する。」とされている。

詳細は同解説書にも記載が見られない(仮に記載されていても難解であろう)。

ところで、借家の家賃には、家主が負担すべき修繕費、固定資本減耗、固定資産税等も織り込まれていると考えられる。また、住宅を取得した際のローンのFISIM(間接的に計測される金融仲介サービス)の価額も家主が負担した上で家賃に織り込まれていると考えられる。

そうすると、持ち家にその家賃を想定した場合、これらの負担が重複して認識されることになる。そこで「持ち家の帰属家賃」を家計の「生産額」とした上で、これから修繕費、ローンのFISIM、固定資本減耗、固定資産税等を控除したものが家計の「営業余剰」とされている。

本当の持ち家なら家主が負担すべきものが、借家を想定したために重複せぬよう、配慮したのである。

不動産鑑定評価で言えば収益還元法の「償却後純収益」、積算法の「純賃料相当額」が「営業余剰」に相当すると言ってよいだろう。


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