BRIEFING.554(2021.04.22)

重要施設土地法の「注視区域」と国土法の「注視区域」

「重要施設周辺及び国境離島等における土地等の利用状況の調査及び利用の規制等に関する法律」(以下「重要土地等調査法」)案が3月26日閣議決定され、国会に提出されている。防衛関係施設、海上保安庁の施設、重要インフラの周辺の区域や、国境離島の区域を総理大臣が指定し、その区域において「個人情報の保護に十分配慮」しつつ「必要な最小限度」(第3条)の一定の措置が実施される。

同法の目的は「(前略)の区域内にある土地等が重要施設又は国境離島の機能を阻害する行為の用に供されることを防止するため、」次の@〜D「等の措置について定め、もって国民生活の基盤の維持並びに我が国の領海等の保全及び安全保障に寄与すること」(第1条)である。

@基本方針の策定
A注視区域及び特別注視区域の指定
B注視区域内にある土地等の利用状況の調査
C当該土地等の利用の規制
D特別注視区域内にある土地等に係る契約の届出

内閣総理大臣は「重要施設の敷地の周囲概ね1,000uの区域内及び国境離島等の区域内の区域で、その区域内にある土地等が当該重要施設の施設機能又は当該国境離島等の離島機能を阻害する行為の用に供されることを特に防止する必要があるもの」(第5条)を注視区域に指定することとなっている。

さて、当コラム読者諸氏にとって「注視区域」と言えば国土利用計画法の「注視区域」だろう。その概要はここで説明するまでもなかろう。

なお、同法の「監視区域」は、地価の高騰する大都市やリゾート計画に沸く地方、そして首都圏移転候補地等、多くの地域に指定されてきたが、現在では小笠原村の1カ所のみとなっており、「規制区域」と「注視区域」は指定実績がまだない。

同法の目的は「(前略)総合的かつ計画的な国土の利用を図ること」(第1条)であり、その基本理念は「(前略)健康で文化的な生活環境の確保と国土の均衡ある発展を図ること」(第2条)である。

それに比べ、重要土地等調査法が「国民生活の基盤の維持」「領海等の保全」「安全保証」を掲げねばならぬのは悲しい現実である。同じ「注視区域」を定めた両法ではあるが、その目的や背景が時代の一面を映し出しているとすれば恐ろしい。

重要施設周辺や離島で外国資本が土地を買い占める事例が相次いでいるという。そしてその登記簿上の法人に連絡が付かない場合もあるという。本当だとすれば、呆然と立ちすくんでいる訳にはいかない。「注視区域の措定」そして「利用状況の調査」を急がねばなるまい。

国土法の「注視区域」は一定の場合に知事が指定するが、前述の通り指定の実績はない。指定の必要がないからである。重要土地等調査法の「注視区域」も、準備はしてあるが指定の必要がない、そんな世の中であることを望む。

なお類似の法案として日本維新の会が提出している「国家安全保障上重要な土地等に係る取引等の規制に関する法律」がある。政府提出の重要土地等調査法と名称も主旨も似ている上、第一種重要国土区域(厳しい)と第二種重要国土区域(甘い)の2つの区域がある点も、重要土地等調査法に特別注視区域(厳しい)と注視区域(甘い)の2つがある点と似ており、混同しがちである。ネット上には、実際に混同したと思われるコメントも見受けられるので注意が必要である。


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