BRIEFING.558(2021.06.28)

「近隣地域」はザックリと、「標準画地」はハッキリと

不動産の価格を求める手法の1つに取引事例比較法がある。近隣地域若しくは同一需給圏内の類似地域等に存する多数の取引事例を収集・選択し、事情補正及び時点修正、さらに@地域要因の比較及びA個別的要因の比較を行って求められた価格を比較考量し、対象不動産の試算価格(比準価格)を求める手法である。

この場合、@Aに当たって次の2つの方法がある。

T.直接比準(両不動産同士で直接@Aを行う)
事例に係る取引価格を対象不動産の価格(試算価格)に直接変換

U.間接比準(両地域内でA、両地域同士で@を行う)
(1)事例に係る取引価格その地域の標準画地価格に変換(A)
(2)事例に係る地域の標準画地価格近隣地域の標準画地価格に変換(@)
(3)近隣地域の標準画地価格対象不動産価格に変換(A)

Uは3段階に分かれていて一見面倒くさい方法とも思えるが、地域同士の格差と、地域内の不動産同士の格差とを、区別して考えているだけで、決して複雑と言うわけではなく、実際に2つの不動産の価格を比較する場合、誰もが無意識のうちにこの方法を取っているのではないだろうか。

例えば、幹線道路に面する三角形の更地Aの取引価格から、その1本裏の道路に面した角地の更地Bの価格を求める場合、(1)三角形でなければ1割は高いな、(2)裏の道なら2割は下がるだろう、(3)でも角地だから3%ほどアップだろう、という3段階である。Aのクセ(三角形)を除去してAB両地域同士の比較を行い、改めてBのクセ(角地)を加味するのだ。AB直接では却って難しかろう。

ところで、地域の範囲は見る人の判断に委ねられ、それには正解がないと言ってよい。ある人は道路に沿ってその不動産の東西10mと判断し、別の人は東15m・西20mで、しかも道路の向かい側も含めるべきだと考えるかも知れない。それはそれでよいし、範囲も大体で問題ない。

一方、標準画地は具体的に想定することが大事である。現実にはすべてが標準的(つまり個別的要因がない)土地など滅多に存在しないから、それを想定で構わない。例えば、規模は約300u、形状は間口約15m×奥行約20mの長方形、接面状況は中間画地、どの道路にどの方位で接面し、・・などである。

これにも正解はなく、標準画地の規模を100u(間口5m×奥行20m)と見立てる人がいてもおかしくない。また、もし角地ばかりの地域なら標準画地を角地としてもいいし、地域要因比較がし易いように標準画地は(実際には存在しなくても)中間画地としてもよいだろう。

いずれにしても、これらをハッキリさせておくことが重要である。あやふやではAの比較ができない。

また、あやふやでは、@の比較における勘案すべき要因の抜落ち、あるいは重複が生じかねない。仮に事例に係る地域の標準画地を角地と見たなら、@においてはその地域を「角地を標準とする地域」と把握して比較しなければならない。特に規模については、どの程度を標準と見るかによっては、@でも勘案しAでも勘案すべきケースがあり注意が必要だ。

近隣地域については、その範囲をハッキリ定める意味はあまりないからザックリでよい。しかし標準画地の想定はハッキリしておくべきである。


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