BRIEFING.559(2021.07.05)

賃貸物件の残置物

建物賃貸借契約終了後の「残置物」については次の3つの問題がある。

T.賃貸借契約解除後、残置物放棄条項に基づき賃貸人が任意処分することの可否
U.残置物を「残置物」として次の賃貸人に使用させた場合の所有権及び管理責任
V.賃借人死亡後の残置物の処理等

建物賃貸借契約が円満に終了した場合、賃借人は目的物を原状に回復してそれを賃貸人に明渡すのが原則である。したがって、賃借人は自分で取付けたエアコンや持込んだ冷蔵庫等を撤去しなければならない。しかしながら、賃借人が賃料滞納のまま行方不明等の場合、その撤去がされない場合もある。

このような場合に備え、賃借人が残置物の所有権を放棄し、賃貸人がそれを賃借人の費用で任意処分できる旨の規定を契約書に盛り込んでいる場合もある。国交省の「賃貸住宅標準契約書」や宅建業協会連合会の「住宅賃貸借契約書」には見当たらないが、いくつかのひな形にこのような条項が見られる。大抵の残置物は換価できるような物ではなく、それを保管するために住宅1戸を遊ばせておく等は、賃貸人の負担になるだけでなく、社会的にも損失であるから、その処分を迅速に行えるよう準備しておくことは有意義なことである。このような条項は「残置物放棄条項」と呼ばれる。しかし「借主の占有の侵害を伴って行うものまでをも許容したものと解することはできない」(東京高裁H3.1.29判決)とされ、任意の明渡し後でなければ無効で、賃貸人による任意処分は許されない。

なお、裁判により契約解除・明渡しが認められた後であっても、実際に賃借人が明渡しに応じない場合(多くはそうである)は、やはり任意処分は許されない。強制執行手続きによって明渡しを行い、その断行期日に残置物(「目的外動産」と呼ばれる)は(賃借人が取りに来なければ)執行官によって売却されることとなる。そして多くの場合、これを買い受ける人などいないから、賃貸人やその関係者がそれを買い受けた上で処分することとなる。捨てるために買うという訳の分からぬ手続きである。

2番目は、任意の明渡し(通常の明渡し)時に、賃貸人の了解(容認、黙認を含む)を得て残置された「残置物」が、残置されたまま、その部屋が次の賃借人に賃貸された際の問題である。この場合の「残置物」は、賃貸人の所有となり、それを目的物(その部屋)に付けて賃貸すれば、賃貸人がその管理・修理(できないなら交換)の責任を負うのが原則である。しかし、特約によって次のように扱うことも可能と考える。

@前賃借人の所有権を賃貸人が承継。しかし管理責任等は新賃借人とする。
A前賃借人の所有権を新賃借人が承継。使おうが捨てようが新賃借人の自由。

しかし、説明が不十分だったり、契約書に「○○は残置物です」としか書かれていなかったりすると、それが故障した時、あるいは原状回復時に争い(再度残置してよいか)になりがちである。

3番目については、先月国交省・法務省が「残置物の処理等に関するモデル契約条項」を策定・公表している。住宅の賃貸人は、賃借人死亡後の残置物の所有権が不明確でその処理に困ることを怖れ、単身高齢者への賃貸を躊躇しがちである。そこで「残置物リスク」を軽減し、このような状況を改善しようという趣旨である。動産である「残置物」だけでなく「賃借権」についても扱っている点は重要である。

具体的には、推定相続人等である受任者に対し(1)賃借人死亡後に賃貸借契約を解除する代理権を授与、(2) 賃借人死亡後に残置物の廃棄や指定先へ送付する事務を委任、等をするものである。これにより、単身高齢者の居住の安定確保が図られることが期待される。


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