BRIEFING.56(2003.6.5)

耐用年数満了後の減価償却費(1)

不動産の鑑定評価において、減価償却費が関連する場合には、次の2つがある。

@収益還元法(永久還元)によって収益価格を求める場合の総費用の査定
A積算法によって積算賃料を求める場合の必要諸経費等の査定

収益還元法は、対象不動産が将来生みだすであろうと期待される純収益の現在価値の総和を求めるものであり、純収益は、総収益から総費用を控除して求められる。減価償却費はこの総費用を構成するものの1つである。

積算法は、対象不動産の基礎価格に期待利回りを乗じて得た額に、対象不動産を賃貸借に供してゆくために通常必要とされる費用を加算するものである。減価償却費はこの必要諸経費等を構成するものの1つである。

いずれの場合にも、減価償却費は、建物の再調達原価を躯体と設備に分かち、それぞれを減価修正して求めた積算価格を、それぞれの経済的残存耐用年数で除して求められるのが一般的である。

では、経済的残存耐用年数が、@設備についてはすでに満了している(設備の積算価格0、または残存価値のみ)と考えられる場合、また、A躯体・設備ともに満了している(設備・躯体ともに同上)と考えられる場合、これらの減価償却費をいかに取り扱うべきであろうか。

鑑定評価の実務上、@の場合、躯体の減価償却費のみ計上、Aの場合には計上せず、というのが主流である。しかし、毎年同一の不動産の収益価格または積算賃料を求めてゆけば、@となった時点、及びAとなった時点で、収益価格が急騰、積算賃料が急落するという矛盾が露呈する。

しかも経済的残存耐用年数が満了したか否かは、微妙な判断であり、鑑定評価の主体によって差異が生じる余地が十分にある。わずかな判断の差で結論に大きな差が生じるというのは妥当ではない。


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