BREFING.563(2021.09.30)

ランプウェイと大規模流通倉庫用地における地積過小

新型コロナウイルスの蔓延以降も、工業地、特に大規模流通倉庫用地に対する需要は衰えない。商業地域の地価が反転下降し、住宅地域の地価も頭打ちとなる中、Eコマースの普及を追い風に、大規模流通倉庫用地はまだ上がりそうな勢いである。

かつて倉庫は平屋が多く、指定容積率200%の敷地に対し、50%程しか使っていないところが多かったと思料する。しかし近年は、200%の容積を使い切った4階建、5階建の倉庫が一般的である。

従来、倉庫の上層階は、垂直搬送機やエレベーターで貨物を上げ下げする必要があったため、1階に比べて賃料が安く、上に行くほど安い(マンションと逆)のが普通であった。したがって階を積み上げても建築費に見合う効用が得られず、その結果倉庫は平屋が多くなったものと考えられる。

近年の中層化を推し進めたのは、ランプウェイの設置である。ランプウェイは大型トラックが自走して上層階へ登ることのできる車路で多くは螺旋状である。安全のため、上り下り別々(一方通行)に設けられるから2カ所必要である。そしてその螺旋の直径(外径)は、40m〜60mと巨大である。仮にこれを一辺50mの正方形とし、2つ設けるとした場合、その敷地面積は5,000uにも及ぶ。

そうすると、1万u程度の敷地では、2分の1をこれに取られてしまい、肝心の倉庫を建てる敷地が十分に取れないことになるから、流通倉庫の敷地規模は、自ずと3万uとか5万uという規模になってくるのである。しかも上層階でも賃料水準は1階とあまり変わらない。そして1対のランプウェイがあれば、相当な規模の流通倉庫に対応できるため、その敷地規模は大きければ大きいほど(限度はあるが)効率がよいということになってくるのである。

勿論、それに対応する需要があってのことだが、ランプウェイが大規模流通倉庫用地の値上がりを支えている面は大いにある。

トラックは、くるくる回りながら上層階へたどり着くが、地上を走行する場合より、少し神経とガソリンを使う程度で、難なく目的の場所に到着する。しかも各階にトラックバースが多数設置されており、運転手や従業員のための休憩所、カフェ、託児所まで用意されているところもある(最近の流通倉庫では当たり前)。

通常、土地の規模は、小さすぎても大きすぎても使いづらいため、適正な規模で最も単価が高い。かつては倉庫用地も3万uとか5万uとかでは地積過大で、1万uよりも単価は安かったはずである。今はランプウェイのおかげで、地積過大の概念がもっと大きな面積に変わったと言えるだろう。そして1万uでは地積過小なのである。

ところで、狭い敷地に無理して建てられたペンシルビルであっても、エレベーターと階段、さらに二方向避難を確保するための避難ハッチ付きバルコニーを有している。各階にトイレ(できれば男女別)、湯沸室も必要だ。そうすると各階の面積のうち、これらが多くを占め、肝心の事務所部分が十分に取れないといったこともあろう。したがって商業地域における事務所ビルの敷地には、少なくとも100uはほしいところである。それ以下なら地積過小と認識すべきかも知れない。商業地域における地積過小の認識は、エレベーターのない時代から、その普及によって大きく見直されたと考えられる。そして今、ランプウェイが工業地域におけるそれを大きく変えてしまったのだ。

米国では、今も倉庫は平屋建が当たり前らしい。土地がいくらでもあるからである。にもかかわらず、米国系倉庫開発業者が、日本においてランプウェイをいち早く取り入れたのは、担当者の慧眼によるものと言わねばなるまい。


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